(以下バージョン7.5までのネタバレがあります。)
バージョン7.4のキューロピアに続いて7.5のゼニアスでも、ジア・クト念晶体による数万年前の侵攻の描写がありました。
ジア・クト念晶体がさまざまな星で侵略に使っていた「結晶化」。
恐らくこれだろうという参照元があると思われます。
SF作家のJ•G•バラードが書いた『結晶世界』(1966年)という小説です。
以下少し『結晶世界』に触れてみますが、J•G•バラードの小説がこのゲームで参照されていると思わせる描写はバージョン1でも出ていました。
『結晶世界』で主人公に相当するサンダース博士という男性医師が、アフリカのある町を流れる河で、男の水死体を発見するところで物語が大きく動き出します。
「軽舟の男たちが浮かんでいる水死体をひっぱっているのが見えた。(中略)しかし、なによりも博士の注意を惹いたのは、死体の右腕だった。博士ばかりではない、ほかの野次馬たちもそこに注意を惹かれていた。右腕は指先まですっかり半透明の水晶体に包まれていたのである。もっと正確に言えば、水晶化して半透明の物質のかたまりとなっていたのだ。そのかたまりをとおして、手と指のプリズムのような輪郭がいくつにも多彩に反映して見えていた。」(東京創元社邦訳 p.64-65)
森林も、地面も、人も、原因不明の水晶化(結晶化)が進んでいくことがわかり、サンダース博士にも身の危険が及びますが、結晶化の危険だけでなく、結晶化の恐怖下に置かれた人々同士の争いや裏切りまで起きてしまいます。
のちに結晶化の原因が、〝時間の消滅に伴う結晶化〟という宇宙規模の危機であることが判明します。
また、同作で結晶化を防ぐ手立てとして、体を動かし続けること、水に体を浸からせること、天然の結晶である宝石を持つことが描かれていますが、
このゲームでは、テトラルがとこしえのゆりかごでみそぎのため女神ルティアナの神気を帯びた聖泉で水浴びをしていたことで完全な結晶化を免れたところが、『結晶世界』での結晶化を防ぐ方法である「水に体を浸からせること」と部分的に似ています。
主人公たちはルティアナの神気を含んだ飲み薬で結晶化への耐性をつけることができましたが、結晶化に対し完全に無力ではないというところはやはり『結晶世界』を思わせるものがあります。
『結晶世界』の結晶化には時間の消滅という原因がありましたが、このゲームでの結晶化はバージョン7時点ではジア・クト念晶体が持つ、魔眼の月が放つ「裁きの閃光」によるもので、その由来はまだ明らかになっていないと思われます。
裁きの閃光はテクノロジーと言ってもいいものなのか。
『結晶世界』では結晶化は時間の消滅によるもので、裁きの閃光は時間に関係はあるのかどうか。
ジア・クト念晶体が、時の民の住むキューロピアに侵攻した理由は何だったのか。創生のチカラを奪う以外の目的(例えば機巧術や時間に関するテクノロジーを奪うなど)はあったのかどうか。
J•G•バラードには三部作と呼ばれる作品群があり、ひとつが『結晶世界』で、
あとふたつは『燃える世界』と『沈んだ世界』です。
『燃える世界』は、世界規模での旱魃(かんばつ)が発生し、水が失われていく中での人々の生き方を描くところが、バージョン1の500年前の世界での、レイダメテスによる水不足の描写と部分的に似ているところがあり、
同作の最後の一文「しばらくたって彼(医師ランサム)が意識を失ったとき、雨が降りだした。」は、このゲームではラズバーン討伐後に破邪舟に乗るエルジュの上空から雨が降り出し、グレン城下町に凱旋したエルジュが少しの間意識を失った場面と、
所々で文脈は違うのですが、降雨と失神のふたつがラストに組み込まれているところがそっくりです。
それにしてもジア・クト念晶体がゼニアスやキューロピアへの侵攻を決めた理由は何だったんでしょうか。
メルドの祝星や来光筒などを作り出すジア・クトのテクノロジーの大元は何なのか。
「収穫」「王」「王冠」といった錬金術用語とも取れる表現を口にしていた理由は。
侵攻の武器となる結晶化のテクノロジーは何由来なのか。
ジア・クト念晶体おける話の展開はまだ続きそうです。
おわり