これは【後編】。これの前の【中編】と【前編】見てから見てください。
「おう兄ちゃん、この弁当だけどな箸がはいってなかったんだよ」
「…」
「箸が入ってないと食べられないだろ?ちゃんと新人教育してんのかこのコンビニ」
「…」
「だいたいここの弁当は何で全部のご飯の部分にカレーかかってんだよ、黄レンジャー専門店か」
「…」
「店内はたまに酸っぱい臭いするし床もちょっと汚いし…あ~…あとほらアレだよアレ、たまに変な酸っぱい臭いがするんだよ」
「…」
「…」
「…」
「返事しろよ!?」
「はいお客様どうしましたか」
「たしかに、たしかに反論しないのがコツとは言ったけどね。出来れば相槌くらいは打ってほしかったな」「あ、打つパターンで?」
「打つパターンだよ!パターンって何なんだよさっきから!?」
顔を真っ赤にして全身を小刻みに震わせた店長が叫んだ。きっと更年期障害だろう。
「店長」
「なんだよ…」
俺は笑顔と共に優しく語りかける。
「自分の店をあまり悪く言っちゃダメですよ?」
「言いたくて言ったわけじゃないけどね。やめどきがわからなくて自分でも驚くくらいボロクソに叩いてたよ…もう精神崩壊起こしそう」
「強く生きてくださいね」
「そうだね…これも仕事…仕事だから…」
ブツブツと呟きながらもやる気を見せていた。
流石は社会人。これくらいの強さがないと社会の荒波は乗り越えられないのだろう。俺の中の店長評価を上方へと修正。5ミリくらい。
そして3度目の練習が開始される。
「おい箸が入ってなかったぞ!」
「当店は本格派でして、右手を使って食べていただければよろしいかと」
「ああそう……いや一瞬納得しかけたけどやっぱおかしいだろ!せめてスプーンくらいくれよ!」
流石に騙されないか。レジの周囲からスプーンを探してみたもののどうも見つからない。これは少々まずい、補充が切れているのかもしれない。
さてどうするかと黙考。早くしなければという焦りの中反射的に自らの右手を叩きつけるようにレジ台の上へ置き、
「俺スプーンをどうぞ!」
「俺スプーン!?その右手で食えと!?最低だよ!?もう一回言うけどその対応は最低だよ!?」
「さようですか」
「さようだよ…」
ガックリうなだれ涙目になる店長。
「客は少ないしバイト募集しても全然来ないし、やっと来たと思ったらコレだよ」
床に座り込んで膝を抱えてしまった。授業中の雑談の合間に『先生の子供っていくつなんですか?』と無垢な女子生徒に質問された中年独身男性教師レベルの哀愁を醸し出している。
「…」
「…」
罪悪感を覚えた俺もつられて無言になってしまう。場を凍らせる沈黙が続き
「あー、店長」
「…」
出来る限り穏やかな声で言った。
「そんなに嫌いじゃないですよ」
「…え」
「この店、俺は結構好きですよ」
多くは語らない。様々な感情をないまぜにした微笑みを、こちらを見た店長へと向ける。
「…」
「…」
「…ふぅ」
一度大きく嘆息し、苦笑を浮かべながら立ち上がる店長。
「別に無理してお世辞言わなくてもいいよ。でも、ま、一応ありがとうな」
「テンチョサン、ゲンキ、ダシテ~」
「な~んかシリアスな雰囲気になっ…いや誰だお前」「ワタシモ、スキヨ、テンチョサン」
「だから誰だよ!?どうしよう事態が全く把握できない!」
「何言ってるんですか、最初からずっといましたよインド人の店員さん。さっきまでずっと弁当コーナーでカレーかけてたじゃないですか」
「一切描写なかったよね!?というかカレーはコイツが犯人か!そもそもインド人雇った覚えなんて…あれ!?」
錯乱してるんだろうか、人物描写がどうとかよくわからないことを叫んでいる。店長、あなた疲れているのよ。
「おっと、そろそろ上がりの時間ですね。ではお先に失礼します」
「この状況で丸投げだと!?ちょ、待ってお願いだから!」
「ふふ、やっと二人きりになれたね」
「さっきカタコトだっとろ!?インド人なのに日本語ペラペラじゃねえか、キャラ安定しねえな!あっ、マジで帰るんだ、待ってよ置いていかんといて!」
アレだけ元気ならばもうきっと大丈夫だろう。
そういや客一人も見てないな、と思いつつ朝日に照らされた道をゆっくり歩くのだった。
終わり。どうもありがとうございました。
明日は忙しいので朝には書けないので。
明日の昼か夕方にセレド編を書きます。
ではおやすみなさい。