(まずは第0話から読んで下さい。)
キアラという名前はイタリアで女性につけられる名前だ。
好きな人の名前を付けたのか?…当たらずとも遠からじ。
それなら女性キャラにするか、姉妹の方に名づけるだろう。
それを最初から話すには、時間をかなりと戻さなければならない。
シチリア産のレモンを滴らせた紅茶でも飲みながら読んで欲しい。
小学生になった時、僕は習い事をさせられた。
親が何かさせなければ不安だったのだろう。
習字、スイミングをやってみたものの、中学生になる頃には飽きて続かなかったので
次の習い事は選ばせてくれた。
その前にDQ1のブームに飲まれ、サントラのバイオリンの美しさに惹かれていた僕は
バイオリンをやりたいと言うと、親は様々な面で悩んだが、なんとか近くの教室を探し出した。
初めて教室に通う日。
どんな先生だろう? 厳しいのかな? バイオリンってどれぐらいで上手くなる?
思いつく限りの不安と仲良くなって一緒に教室へはいったのだが、
思いつく限りの外側から驚きはやって来た。
先生というのはイタリア人の女性で、まるで絵画の中の美しい女性にこちらを見られてるような
不思議な感覚に包まれた。
先生は日本語を話すときは何も違和感はなかったが
自己紹介で名前を"chiara"と発音した瞬間だけ、まるっきり異国の人になったのが
当時の僕には新鮮な驚きだった。
先生は「ゆっくり上達しましょう」と言い、親も高い楽器を買ったのだからすぐ辞めないようにと言い、
僕は先生を前にすること自体が、まるで美術館で作品を鑑賞するかのような恍惚をもたらしていたので
どこにもすぐやめる理由は見当たらなかった。
そのうち受験というものもやってくるけど、それは置いといて、
先生のレッスンをずっと受けるのだろうという、無意識の願望をヒラメキのように感じていた。
まぁそんな勘みたいなものはその後も当たることはなかったのだけど。
(第2話へ続く)