(まずは第0話から読んで下さい。)
先生は僕の困惑する顔を見てニヤッとしてから、昔話を始めた。とにかくまとめると…。
先生のバイオリンの腕は良く、若手演奏家の中でも一目置かれていた。
当然寄ってくる男も多かったが、先生の家はケフィアだかソフィアだかの家で、
その怖い大人を前に男たちは近づかなかった。
しかし一人だけ、それでも近づいてくる男がいた。
船大工をしてる豪快な男だった。
海を愛している、といえばかっこいいが、ある時はスカイダイビングからそのまま海に入り
スキューバダイビングをするなんていう、頭がおかしいんじゃないかという人だった。
彼は怖い大人たちを挑発するように、まるで誘拐するかのごとく先生を連れだしていた。
本人は冗談でも大人たちは本気で怒って彼を殺そうとしていた。
彼のことを好きになっていた先生は、彼に無茶をしないよう頼んだが、どうしても聞き入れてくれなかった。
もう彼の命が危ないと思った時、先生は、家に出入りしていた商社マンを惚れさせ
ほぼ仮の夫婦となってイタリアを離れた。少なくとも先生が国内にいないうちは、彼も安全だろうと…。
「一昨日、弾いてくれた曲、それはちょうど彼が歌ってくれた歌だったんだよ。
それから彼が言ってくれた。『あなたを 海よりも 好きだ』と…。」
僕は先生が作り話をしているかわからなかった。そんな偶然なんてあるわけ…。
「だから、彼が心だけになって日本に来たのかと思ったよ。」
そんなあやふやな話をする先生こそ、心が別の人になっている?
僕はただ黙っていることで、聞きたくない話に反抗した。
「ごめんね、こんな話をして…。でもどうしても言っておきたかったの。
ええと、王様の耳はロボの耳って言うでしょ。」耳だけ機械かい!
先生はもう優しい先生に戻っていた。
いつもは先生と同じ音楽仲間として話していたつもりだったが、やはり先生は大人で僕は子供だった。
先生の身の上話を聞いた後では、僕の一大決心の告白などは、お遊戯の発表会じゃないか…。
しかし別れ際に先生は優しくハグをしてくれた。初めてだった僕は、公園の人目が気になり
ハグを返せないまま固まったままだった。
ともかく、先生の話は最初はどこへたどり着くかわからなかったが、
要は先生の思い出につながった…ということなのだな。そう理解することにした。
それよりも僕にとって大事なのは、先生に嫌われていないということだった。
そこだけは確かだったので、僕はのんきに安心したのだった。
翌週のレッスンへ向かう途中、僕は先日のことを思い出し、あれこれ思いを巡らせた。
先生の過去の打ち明け話を聞いてしまった僕は、どんな表情で接すればいいのだろう。
またあの話の続きだろうか? いや先生の性格からしてそれはないはずだ…。
考えがまとまらないけど、いつもどおりでいいや!と腹をくくって先生の家のチャイムを鳴らすと、
返事のないままドアが開き、初めて見る男の人が現れた。コマンド?
(第5話へ続く)
※本文と関係ないメモ:
本日22:00のプレイベ「★王族ドレア交流会★」に行くかも