真っ暗で何も見えない。
けれども、体がふわっと浮くような・・・そんな感覚。
そして、とても気持ちが良い。
ここは一体何処なのだろう。
もふもふとしたものが、僕の顔を撫でる。
それがあまりに気持ち良くて腕を伸ばした。刹那
「きゃ~~~~~~~~~!!動いた~~~~!!」
「!?」
僕は、文字通り飛び起きた。
どうやら眠っていたらしい。
急に発せられた大音声に、心臓がばくばくと音をたてて鳴っている。
辺りを見回してみると、ここは美しい花畑だった。
暖かい太陽の光を浴びながら、色とりどりに咲き誇る花達は
心地良い風に吹かれて、ゆらゆらと揺れている。
白い雲はゆっくりと青空の散歩を楽しんでいた。何とも幻想的だ。
しかし、この場所に全く見覚えがない。
そして、いくつもの顔がこちらを覗いていることに気付いた。
花の民プクリポ。
可愛らしい容姿のこの種族は、好奇心が旺盛で楽しいことが大好きだと聞く。
草花の影に隠れているつもりのようだが、隠れきっていないのがまた微笑ましい。
目線を下ろすと、そこには怯えているプクリポの女の子がいた。
ピンク色の華やかな髪が印象的だ。
先程、僕の顔に触れていたもふもふしたものは、彼女の手だったようだ。
「驚かせてしまって、すまない。
僕の名は、プロメテウス。
ここは・・・君達の遊び場かな?」
乱れた呼吸を整え、視線に合わせて座り込み
その女の子に穏やかに語りかけた。
彼女は暫く黙っていたが、ニコッと微笑むと
僕の膝に、ちょこんと座り込んだ。
それを見ていたプクリポ達が、互いの顔を見合わせた後
次第に姿を表して僕の側まで集まってくる。
「何でこんなところで寝てたの?」
「お兄ちゃん、どこから来たの?」
「ねぇねぇ!遊ぼう~」
たくさんのプクリポ達が、一斉に色々話しかけてきて混乱するものの
色々な話をしていく内に、彼らとも打ち解けてきた。
何故かいつも持ち歩いている画集を見せたり
肩や膝に乗っかってくる子や、僕の耳を面白がる子がいたりして
さながら幼稚園の先生になった気分である。
賑やかな時間を過ごしていた僕は、忘れていた。
「・・・ここは、何処なのか?」
ふと思い出して、そう口にしていた。
騒がしかった彼らは、ピタッと話すのを辞めた。
「あのね・・・しは、りっ・・・いに・・・くから・・・」
先程のピンク色の髪の女の子が、何かを言っている。
急に声が遠くなる。良く聞こえない。
どんどん意識は薄くなっていく。
一体、どうなっているんだろう・・・
鳥のさえずりが聞こえてくる。
木々が風に揺られ、さらさらと音を立てていた。
時より掠める木洩れ日が眩しい。
僕は、ゆっくりと目を開けた。
ーーーー夢。
『クスッ』
誰かに笑われた様な気がして、声のした方を見る。
そこにいるのは、中身の入っていないはずの酒場で借りてきた仲間の姿。
僕は所謂、"寝落ち"をしていたようだ。
立ち上がって服に付いた枯れ葉を払い
僕がよく借りてくる、ウェディの女の子の前に立って顔を覗く。
ツン。と、おでこを人差し指でこづついてみた。
当たり前だが、反応はない。
無表情の彼女にクスリと微笑み返して、マントを翻した。
木漏れ日の差す爽やかな並木道を、馬にまたがり僕は再び走り出した。