冷え切ったココアの表面に、液晶の光が虚しく反射している。
ドラゴンクエスト10の世界、メギストリスの都。きらびやかな石畳の上を、今日も誰かのドルボードが騒がしく通り過ぎていく。プクリポたちが楽しげに跳ね回る音、フレンドリストのチャットが飛ぶ予兆の「ピコン」という幻聴。
「あー、なんか……だめだなぁ」
独り言が、誰もいない自室の壁に当たって寂しく跳ね返った。
画面の中の自分のキャラは、一番お気に入りのドレアをして立っている。誰かに「可愛いね」と言ってほしい。誰かと「どこか行く?」って笑い合いたい。
なのに、いざキーボードに手を置くと、指先がひどく冷たくて動かない。
「今から誘っても、みんなもう組んでるよね」
「私、何話せばいいんだっけ」
喉の奥がキュッとなる。胸のあたりが、重い漬物石でも置かれたみたいに苦しい。寂しさが、冬の夜の冷気と一緒に肌にまとわりついてくる。
フレンドのログイン通知が右下に流れるたび、心臓が小さく跳ねる。でも、自分から「遊ぼう」と声をかけるだけのガソリンは、もうどこにも残っていなかった。
その時。
「お、いたいた。おつかれー」
不意に、目の前に白チャットが浮かんだ。フレンドのオーガが、しぐさ「お辞儀」をしながら隣に立っている。
「……あ、お疲れさま」
「今日、なんかぼーっとしてるな。疲れてんの?」
「うーん、ちょっとね。元気が出なくて」
嘘をつく元気もなくて、正直にこぼした。相手の大きな体が、画面越しでも温かく感じる気がした。
「そっか。じゃあさ、ここ座っていい? 俺もちょっと職人疲れたから、休憩」
彼は誘うわけでもなく、ただ私の隣でどっしりと座り込んだ。
香水の匂いがしてきそうなほど近い距離。ただ並んでいるだけ。でも、それだけで。
さっきまであんなに重かった胸の石が、少しだけ軽くなった気がした。鼻の奥がツンとして、視界が少し滲む。
「……ありがと」
「礼を言われることじゃないって。ただ、ここにいたいだけ」
キーボードを叩くカチャカチャという音さえ、今は心地よいリズムだ。
冒険に出る勇気はないけれど、この静かな時間が、凍りついた心にじわじわと体温を戻していく。
「明日、もし元気になったら、どっか散歩いこうぜ」
その言葉が、暗い部屋の中でキャンドルの火のように小さく灯った。
「うん。……明日ね」
私は深く、深く息を吐いた。
少しだけ、ココアを温め直してこよう。そんな小さな前向きさが、指先にようやく戻ってきた。
こんばんは
おつかれさまです♡