画面の中、ウェンディのみるくは広大なナドラガンドの荒野を走っている。コントローラーを握る指先には、プラスチックの冷たい感触。けれど、それ以上に冷たくて重いものが、私の胸の奥に澱のように溜まっていた。
「……また、ゴミか」
視界の隅で光る小さな点。近づいて拾い上げたのは、安価な素材。その瞬間、頭の中で「内なる声」が毒を吐く。
『こんなのいらない』『時間の無駄』『もっといいものが落ちていればいいのに』
この、無意識に溢れ出す「インナーワード」というやつは、本当に厄介だ。一日に数万語も浮かぶというそれは、気づけば私の心を「損か得か」だけの灰色の景色に変えてしまう。
「いけない。変えてみるって決めたんだもんね」
私は深く息を吸い込んだ。窓から入り込む冬の冷たい空気が鼻腔を突き、少しだけ頭が冴える。画面の中では、草が風に揺れるサワサワという音が響いている。
よし、訓練だ。
次に光るポイントを見つけた。指がボタンを押す。手元に伝わる「ポワン」という軽い効果音。
『あ、また小石か……』
反射的に浮かびそうになった言葉を、喉の奥でギュッと飲み込んだ。代わりに、無理やりにでも外側の言葉を紡ぎ出す。
「……ううん、違う。これは、いつか誰かの防具を強くする材料。お疲れ様、見つかってよかったね」
声に出してみると、耳から入った自分の声が、不思議とトゲトゲした心を丸く削っていくのがわかった。
「ごみ拾い」じゃない。「宝探しの途中」なんだ。
また一つ、光る場所へ。キャラの足音がタッタッタッと土を蹴る。
『遠いな、面倒くさい』
そんなネガティブが首をもたげたら、すぐさまポジティブで上書きする。
「走れる足があって幸せ。この景色、空がこんなに青かったんだ」
画面の向こうの、吸い込まれるようなナドラガンドの空を見上げる。コントローラーの振動が、なんだか心臓の鼓動とシンクロして、心地よいリズムに変わっていく。
不思議なものだ。言葉を変えるだけで、指先の重みが消えていく。
「おさかなコイン」を貯める時も、お好み焼きを焼く時も、そしてこのキラキラを拾う時も。私の心は、私が選んだ言葉でできている。
「楽しいね、みるく」
ふふっ、と思わず笑みが漏れた。
インナーワードをポジティブに書き換える作業は、まるで鍛冶で「会心の一撃」を狙う時のように繊細で、それでいて熱い。
一見、価値のない「石ころ」を拾う動作が、今の私にとっては「幸せを感じる心を育てる」という、何よりも贅沢な経験値稼ぎに変わっていく。
指先が温かくなってきた。
次に拾うのが何であっても、私はきっと笑って「ありがとう」と言える。
そう確信した瞬間、胸の奥の澱がキラキラと光って消えていった。ゲームの画面よりもずっと鮮やかに、私の人生が色づき始めた音がした。