真のリャナ荒涼地帯、その片隅にポツリと建つ異界前線基地。降りしきる雨は容赦なくウェンディのみるくの肩を打ち、湿った土と鉄錆の匂いが混じり合って鼻腔を突いた。
「……うそ、でしょ」
震える指先で開いたドラキーマの通知画面には、冷酷な一行が刻まれていた。
『チーム「絆の翼」から脱退しました』
続いて届いた一通の手紙。そこには、かつての仲間たちがずっと喉の奥に隠していた言葉が、鋭い刃物のように並んでいた。
「みるくさんの自分語り、正直もう限界です。話が長すぎて、みんな疲れてるの。悪い人じゃないのはわかるけど……もう、いらないかな」
「いらない」。その四文字が、心臓の奥深くに泥水を流し込んだ。喉の奥がキュッと締まり、呼吸の仕方を忘れたように胸が苦しくなる。
誰よりもチームを盛り上げようとしていた。沈黙が怖くて、必死に話題を紡いでいた。それが、相手の時間を奪う「加害」だったなんて。
「あはは……なんだ、私、邪魔だったんだ」
乾いた笑いがこぼれる。目の前には、異界の魔物に蹂躙され、全滅して地に伏せたままの自分がいた。真っ暗な画面に映る自分の顔は、驚くほど無様で、惨めだった。
『やっぱり私はごみだ。無駄な存在。価値なんて一Gもない』
内なる言葉(インナーワード)が、嵐のように自分を打ち据える。雨に濡れたコントローラーは冷たく、指先の感覚を奪っていく。
全滅した悔しさよりも、誰からも必要とされていないという「透明な絶望」が、視界を白く染め上げた。
「一生懸命だっただけなのに……どうして」
呟いた言葉は、激しい雨音にかき消された。
一瞬前まで「仲間」だと思っていた人たちの顔が、霧の向こうに消えていく。自分だけが取り残されたこの戦場で、死んだように動かないアバターだけが、今の自分の正体のように思えた。
肌を刺す寒さと、胃の奥が重く沈む感覚。
もう二度と、誰かと笑い合うことなんてできない。
そう確信した暗闇の中で、彼女はただ、冷たくなった指をぎゅっと握りしめることしかできなかった。