朝、カーテンの隙間から差し込む光が、まだ重たい瞼を叩く。私はゆっくりと起き上がり、洗面台の鏡に向かった。
「……おはよう、私」
曇った鏡を、真っ白なタオルでキュッキュと磨き上げる。ガラスの表面がクリアになるにつれ、そこに映る自分の顔も少しずつ鮮明になっていく。私は強張った頬の筋肉を意識的に引き上げ、無理やりにでも口角を上げてみた。
「大丈夫。心は、私が選ぶ言葉でできているんだから」
昨日見た動画の言葉が、耳の奥で心地よく反響する。今までの私は、自分自身を「ごみ」と呼び、価値のない存在だと呪い続けてきた。けれど、もし言葉が世界を作るなら、今日からはその魔法を自分を救うために使いたい。
コントローラーを握る手に、いつもより優しい力を込める。アストルティアに降り立つと、そこには変わらない風が吹いていた。
「よし。今日は『誰かの機嫌を取るための冒険』はおしまい」
チームチャットの沈黙に怯えたり、無理に面白い話をひねり出したりする必要はない。今はただ、自分の指先が感じる「心地よさ」だけを追いかけよう。私は一人、盗賊の姿でフィールドへと駆け出した。
足元に転がっている小さな素材に目を向ける。今までの私なら「こんな端金にしかならないゴミ」と吐き捨てていたかもしれない。
「……ううん、違う。これは、私が今日を頑張った証。キラキラ輝く『宝探し』の途中なんだ」
「ゴミ拾い」を「宝探し」と言い換えた瞬間、視界の彩度が一段階上がったような気がした。カバンの中に素材が吸い込まれる「シュパッ」という小気味よい音。それが、私の心の傷を一つずつ塞いでいく。
「あはは、また見つけた! めっちゃ調子いい!」
溢れそうになる自分語りを、ふっと「沈黙の余白」へと逃がしてみる。静寂は敵ではなく、自分を見つめ直すための温かい毛布だ。誰にも邪魔されない、自分だけの時間。
鏡の中の私が、少しだけ自然に笑えるようになっていた。
1Gにも満たない素材の輝きが、8000万ゴールドへと続く「黄金の道」の第一歩であることを、今の私はまだ知らない。
「心のリハビリ、順調、順調……!」
私は自分自身にそう声をかけ、再び軽やかに扇を翻した。