冷たい夜気が、しんと静まり返ったマイタウンを包み込んでいた。吐き出す息は白く、けれど不思議と寒さは感じない。目の前に広がる景色が、あまりに幻想的な蒼い熱を帯びていたからだ。
「……きれい」
独り言が、澄んだ空気の中に溶けていく。視界を占めるのは、氷の結晶で編み上げられたような巨大なスノードームと、夜空に向かって背を伸ばす光の花々。それらはパチパチと、耳を澄ませば聞こえてきそうなほど微細な光の音を立てながら、静かに瞬いている。
足元に広がる蒼い水面のような輝きを踏みしめ、私はドームの前へと歩みを進めた。そこには、ただ飾られているだけではない、誰かの「祈り」に似た温もりが確かに宿っている。
「ここに来ると、心がほどけるのがわかるよ。みるく」
私はその空間に向かって、届くはずの主(あるじ)の名を呟いた。ふわりと、どこからか甘い冬の香りが鼻をくすぐる。それは雪の匂いかもしれないし、ここに集められたクリスタルが放つ、清浄な魔力の香りかもしれない。五感のすべてが、この静謐な蒼に支配されていく感覚。
ドームの中に設えられた天蓋付きのベッドが見える。柔らかな布地が夜風に揺れ、その質感さえもが、見る者の心に「休息」という二文字を優しく刻み込んでいく。
「最近、少しだけ頑張りすぎていたのかな」
指先で光の粒に触れてみる。ひんやりとした感触が肌に伝わり、それと同時に、胸の奥に溜まっていた澱のような疲れが、スッと消えていくのがわかった。
「ありがとう。この景色を作ってくれて。この場所で、私を見つけてくれて」
感情が溢れ、視界が少しだけ滲む。それは悲しみではなく、圧倒的な「癒やし」に触れたときにだけ流れる、温かな雫だ。蒼い光は、そんな私の小さな震えさえも、大きな慈しみで包み込んでくれる。
ここは、ただの庭ではない。誰かを想い、誰かの疲れを吸い取ろうと願った「優しさの結晶」なのだ。その心根に触れたとき、私の魂は本当の意味で、今、この瞬間を味わっている。
「さて、明日もまた、笑っていけそうだよ」
深く、深く深呼吸をする。肺を満たすのは、冷たくて清らかな光の粒子。心臓がトクンと、力強く、そして穏やかに鼓動を刻む。目覚めた瞬間の感謝、生きていることの奇跡。そのすべてが、この蒼い世界と共鳴していた。
名残惜しさを背中に感じながら、私はもう一度だけ振り返る。ドームの輝きは、さっきよりもいっそう優しく、私の背中をそっと押してくれたような気がした。