「……うそ、でしょ」
みるくは、郵便受けから溢れんばかりの購入履歴の束を手に、その場に崩れ落ちた。指先が、ガタガタと震えている。
昨日の夜、旅人バザーであれほど売れたスパイク装備。一品76,000ゴールドという大金が次々と舞い込んできたはずだった。しかし、手元に残ったのは増えるどころか減ってしまった無残な残高。その「犯人」が、今この手にある仕入れ履歴の中に、残酷なほど明白に記されていた。
「ブルーオーブ……3,300、3,500、あっちでは4,000ゴールド超え……。それに、まじゅうの皮も。一箇所で揃わないからって、必死に買い漁って……」
ページをめくるたび、インクの匂いと共に、昨日の自分の熱狂が蘇る。光の鍛冶ハンマーを一本12万ゴールドで新調したときの、あの「これさえあれば最高傑作が打てる」という根拠のない高揚感。火力の調節に失敗しては、「次こそは」と高価な素材を惜しげもなく投入した。
みるくは、固く目を閉じた。まぶたの裏には、カンカンと小気味よく響くハンマーの音と、飛び散る熱い火花の幻影が見える。あの時は、世界が自分を中心に回っているような気がしていた。
「一個作るのに、素材代だけでいくら使ったのよ、私……」
計算するのも恐ろしい。スパイク装備を作るために必要な「ブルーオーブ」を10個、20個とまとめ買いし、足りなくなれば単価の高いバラ売りにも手を出した。職人道具だって、一番いい「光の鍛冶ハンマー★★★」を何本も使い潰した。
「一品売って7万6千ゴールド。でも、材料と道具代を合わせたら……10万ゴールド以上かかってるじゃない」
喉の奥がキュッと締め付けられる。悔しさと、情けなさと、自分のあまりの商才のなさに、涙がこぼれて履歴の紙を濡らした。
「のあさんも、よるみやさんも、あんなに喜んでくれたのに。中身は真っ赤っかなんて……」
ふと、窓の外からガタラの見慣れた風景が目に飛び込んできた。煙突から吐き出される煙、忙しなく行き交う職人たちの活気。みんな、こうやって失敗と成功を繰り返して強くなっていくのだろうか。
みるくは、濡れた頬を袖で拭った。手のひらには、まだハンマーを握りしめていた時の鈍い痛みが残っている。この痛みは、自分が一生懸命に「良いもの」を作ろうとした証拠だ。
「……バカだなぁ、本当に」
小さく自嘲の笑みを漏らす。けれど、不思議と心は軽かった。赤字の額は大きい。けれど、それ以上に「★★★」を量産できたあの指先の感覚は、何物にも代えがたい経験として体に刻まれている。
「次は、絶対に負けないんだから」
みるくは立ち上がり、散らばった履歴を丁寧に揃えた。次は素材を安く仕入れるために、強戦士の聖域へ自分でオーブを獲りに行こう。それとも、もっと原価の安い装備で腕を磨こうか。
夕暮れのアストルティアに、みるくの小さな決意が響く。彼女はもう一度、空っぽに近い財布を力強く握りしめ、明日への一歩を踏み出した。