何だか嫌な予感がしながら私はコンシェルジュの職務を粛々と続けていると、ビョルン先輩が倉庫から戻ってきました。
「一体、何の騒ぎだったんだね?」
「それが、私の姉が来ていまして…」
「リーネさんが!?」
「はい…。私の様子を見に来てくれたようなんですけど…」
「今、何時だね?」
「えーと、夜の8時になりますね」
「!!」
ビョルン先輩の表情が一瞬青ざめたのを私は見逃しませんでした。
「どうしたんですか?」
「うぃすたりあ君。すまないが2時間ほど一人で留守番を頼みたい」
「は、はい」
「9時からコロシアムへ行くというのをすっかり忘れていたよ!」
「え!?」
「リーネさんも人が悪い」
ビョルン先輩はそう言い残し、急いで支度をして宿屋から出て行きました。
そこからの2時間。ビョルン先輩が帰って来るまでの間、私は不安を押し殺しコンシェルジュの仕事に邁進。
そして、夜11時頃。先輩は血相の良い顔(…って元からか?)でにこやかに帰って来ました。
「おかえりなさい」
「ただいま。トラブルとかはなかったかね?」
「大丈夫でした」
「そうかそうか」
「どうしたんですか? そんなにニコニコされて」
「全戦全勝だからねー!」
「それはすごいですね!」
「いやぁ~、君のお姉さんは本当にすごい人だね!」
「え?」
「彼女、冒険者たちに執拗に狙われてるのに、みんな返り討ちにしていたから。ゴールドシャワーで!」
「!!!!?」
「持って入れる金額は決められているけれど、効果的に使って、いや~、すごい!!」
「ゴルシャしたんですか…」
「ああ、私はあんなお金の使い方できないよ」
「……」
「どうしたんだね? 顔色悪いよ?」
「あ…、いえ……」
「それにしてもウェディングドレスで戦うなんて斬新だなぁ」
「…そうですね」
「一日に何億も稼いでいる人は違うねー」
「銭ゲバですからね…」
「そんなに忙しいのにどこで鍛えているんだろうね?」
「さぁ。私が知りたいくらいです」
「でも、負けた相手も試合終わってからお姉さんと仲良く写真撮ったりしていたよ」
「ほんとですか!?」
「ああ、みんな喜んでたよ!」
「そうですか。それはよかった」
「ん?」
「みんなから恨み買ってるのに、さらに恨みを買ったんじゃないかとハラハラしていたんですよ」
「そうだったのか。それならば心配いらないよ」
「よかった…」
私は少しほっとしつつ、再び姉が私の下を訪ねてくるのではないかと心配になりました。
姉は私の大事なアクセをきっと狙っているはずだから…。
つづく