むかーしむかし、あるところに、カッパのアルとちさ、そしてセレスが暮らしていました。
アルは天真爛漫。思いついたらすぐに飛び出して、水しぶきと一緒に笑うカッパ。
ちさはふたりをそっと見守る、やさしいカッパ。
そしてセレスは、かくれるのがとても上手なカッパ。
見つからない場所を知っているというより、見つけてもらう“そのとき”を、よく知っているのでした。
ある日も三人は川へやってきて、ぱしゃん、ぱしゃんと水を弾ませながら遊びます。
「ねえねえ、今日はかくれんぼしようよ!」
アルがくるりと振り返ります。
「いいよ。じゃあ、ぼくが探すね」
ちさはやわらかく微笑みました。
「ほんと?じゃあ、絶対見つからないよ?」
セレスは少し誇らしげに目を細めます。
アルとセレスは顔を見合わせて、ぴょん、と散っていきました。
「もういいかーい」
ちさの声は、水に溶けるみたいにやさしく広がります
「まーだだよー!」
「……まだだよ」
元気な声と、小さな声。ふたつの気配が、川辺にふわりと漂いました。
やがて――
「もういいよー」
ちさはゆっくり目を開けて、あたりを見渡します。
川は静かで、さっきまでの笑い声が嘘みたい。さらさらと流れる音だけが、耳に届きます。
「アル?セレス?」
そっと名前を呼びながら、石の影や水草のあいだを探します。
足音を立てないように、川の音にそっと重ねるように歩きながら。
(ふたりとも、楽しんでるかな)
見つけることよりも、その時間を大切に思いながら、ちさはゆっくり進みます。
そのとき――
水の音が、ひとつだけ強く弾けました。
「ここだよーっ!」
ぱしゃん!
アルが勢いよく飛び出してきました。
「わっ、びっくりした」
ちさが目を丸くすると、アルはにこにこ。
「えへへ、驚いた?」
でも、まだひとり足りません。
「セレスはどこかな?」
ちさがそう言った、そのすぐあと。
「……ここだよ」
小さな声が、すぐ近くから。
気づいたときにはもう、足元の岩陰から、セレスがひょいっと顔を出していました。
「わあっ!」
今度はアルが驚く番です。
「ふふ、気づかなかったでしょ?」
セレスは少しだけ得意げに笑いました。
「ぜんぜんわからなかったよ……!」
アルは悔しそうにしながらも、すぐに笑顔に戻ります
ちさもくすっと笑って、
「ふたりとも、とても上手だったね」
その一言に、アルも、セレスも、なんだか少し誇らしくなりました。

たくさん遊んでいるうちに、空はゆっくりと色を変えていきます。
橙がやわらぎ、群青へ。
川の音もどこか落ち着いて、昼のにぎやかさをやさしく包み込みました。
三人は並んで座り、夜空を見上げます。
星はひとつ、またひとつと灯り、静かな川辺を照らしていました。
「おなかすいたね」
アルが言うと、
「うん、きゅうり食べよっか」
セレスがうなずき、
「三人で分けよう」
ちさがやさしく言いました。
一本のきゅうりを、三人でそっと持ちます。
ぽきっ。
ぽきっ。
小さな音がふたつ、夜に溶けました。
「はい、アル」
「ありがとう、ちさ!」
「セレスも、どうぞ」
「ありがとう」
しゃくっ。
しゃくり。
しゃくっ。
みずみずしい音が、静かな川辺にやさしく広がります

しばらくのあいだ、三人は言葉もなく星を見上げていました。
けれど、その沈黙はあたたかくて、同じ時間を分け合っていることが、静かに伝わってきます。
三つに分けたきゅうりのように、三人の時間もまた、同じやさしさでつながっていました。
かけらになっても、なくならないものが、そこにはありました。
アルとちさとセレスは、今日も、そしてこれからも…幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。