洗面台で自分の顔を見る。
鼻毛が一本、えらく光っている。
なんだこれ?鼻水でもまとわりついているのか?
ティッシュでほじくるも、いっこうに取れない。
よく見ると、白くなった鼻毛だった・・・。
また少し老化が進んだ自分に、少し落ち込む。
広場をのぞくと、
しばらくインしていなかったフレンドが日誌を書いていた。
タイトルに“少し報告”とあった。
さっそく読んでみると・・・。
仕事の都合で海外に移住するため、ドラクエ引退するという内容だった。
!
海外とな?!
大丈夫かいな?
それが第一印象だった。
このフレンドとの出会いは5年ちょっと前。
初めて入ったレーナム緑野をウロチョロしていると、
ブルーのウェーブのウェディのおねえちゃんに話しかけられる。
明るく元気なチャットから、子どもで女の子だと察した。
話しかけられた内容は、祈りの宿に居る美容師さんのヘアカラークエスト。
その対象である、きりさきピエロがひとりじゃ倒せないから、
手伝ってほしいというものだった。
自分もまだキーエンブレム集めの最中で、そんな強くはなかったけれど、
このとき、このウェディの子よりは強くって、
見事きりさきピエロを倒して、ヘアカラークエストをクリア。
「さすが!つよい!!」なんて言われて、ちょっといい気になった。
クリアした後、「赤かあ。」なんて呟いていて、
あ、この子は赤嫌いなのかな?なんて思ったのも印象に残っている。
そのままフレンド申請されて、その後しょっちゅうご一緒した。
迷宮だったり季節イベントだったり、レベル解放クエストだったり、
日誌をさかのぼってみると、けっこう色々とご一緒していた。
その都度、にぎやかにチャットをしてくる。
こっちが心配するくらい、自身のことを包み隠さず話す。
早い段階で中学生の女の子だというのが判った。
クラスであった嫌なこととかつぶさに話す。
そうかと思えば、しぐさを駆使して意味の解らないことをはじめる。
天真爛漫という表現がぴったりくる子だった。
NPCに例えると、レーンの村の村長の娘、ルベカちゃんのよう。
「無邪気だねえ」「かわいいですね」
一緒になったチームメイトや他のフレンドらが癒されていた。
コロシアムがプレオープンしたとき、
フレンドらと参加したものの、入口付近で待ち伏せされ、
復活しちゃあハメ殺しされて無茶苦茶にやられた。
「こんなん二度とやるか!」
そう思っていたら、このウェディのフレンドさんに、
「コロシアムいきましょー!」と元気に誘われた。
むげに断れないなあと思いつつ、無邪気な子どもの前で、
ゲームで憤慨するような、大人げない姿を見せたくはない。
そう考えて、丁重にお断りした。
きっとこの子も、めった打ちされてヘコむはず・・・。
そう思っていたけれど、そんな心配をよそに、
本オープン後も、SSにまでのし上がる猛者になっていた。
気付けば、毎晩コロシアムに入り浸る子に。
若者の可能性というか、能力はすごいなあと感心したものだった。
そんな彼女、しばらくインしなくなる。
数年ぶりにインしたのが昨年の秋ごろだったか。
ちょうど隠れスライムフェスティバルが開催されていた頃。
久しぶりにインしていたので思わず声をかけ、
スライムフェスティバルに誘った。
ここで驚いたのが、中学生だったあの子がOLさんになっていたこと。
時の流れを感じ、おっさんはしみじみと若者の成長を喜んだ。
そして、今日のそのフレンドの日誌。
社会人わずか二年目にして、海外移住。
詳しくは書かれていなかったけれど、そのきっかけもドラクエというから気になる。
このフレンドに限らず、知り合った頃は学生だった子たちが、
自衛官を目指して頑張っていたり、立派なお医者さんになっていたり、
看護士さんになっていたり・・・。
若者たちの成長を目を細めて喜ぶ。
がんばりんさいや。
どこの国に行かれるのか知らないけれど、
おっさんは日本からエールを送る。