青翔、雲の上から尋常ではないほどの爆風の中から飛び出す一人の青年。白と青のマシンボードを乗りこなしながら、火の海と化した夢の飛空艇街『サファイ』から間一髪逃げ出す。
遠目で飛空艇を見ようとすると、そこには既に姿を消し、黒い煙が雲を覆っていた。
青年は悔やむが、"彼"の言った言葉を信じて…故郷『レンドア大陸』へ向かう。
飛空艇国『サファイの街』。それはフッデン様と呼ばれる偉大な魔術師かつ賢者が作り出した"雲の上に聳え立つ夢の国"。飛空艇の動力と天空のオーブによる魔法エネルギーで飛ぶことを維持し続けている。
中心にはフッデン様の城があり、そこから円形に街が広がっている。
この物語の主人公は、今から起こる悲劇から免れた一人の青年『シエル=ナンビュス=クラウス』であった。シエルは空賊になることを目指す至って普通のどうぐ使い兼盗賊であった。
シエルの父が飛行船船長であったため、空に関心があり、大空のことを学ぶため、サファイの街で住むことを決心したのだ。
幼なじみの女の子『リタ』と毎日遊んで、たまに仕事。そんな平和かつ幸せな日常を送っていた。
この日常が崩れたのは、昨日の深夜だった。いきなり雲の上であるにも関わらず暴風雨が飛空艇を襲う。雷鳴は轟き、風は街を崩壊させる。
非日常的な事件が起きた元凶はすぐに現れた。
「魔王軍だぁぁーっ!」
飛び回る魔王軍が城壁を越え、街を見下ろす。突如として鳴る爆発、さらに空を駆ける黒馬が闇の雷を街へ落とす。
目に見えたのは魔軍十二将の黄色い悪魔『ベリアル』、そして暗黒の馬『黒龍丸』だった。
さらに無数ののスターキメラ、ドラキー、ドラゴンライダーが住民を襲う。
シエルは一目散に城へ逃げる。
城内は暗闇と静寂に包まれていた。衰弱した住民達は壁に凭れ、ボロボロの兵士達も恐怖に怯えていた。
城の大門は閉ざされ、魔物たちはドンドン、と音を立てながら扉を開こうとする。
シエルはすぐにイスに座って、弱っているリタの元へ駆け寄り、声をかける。
シエル「おい!大丈夫か?」
すぐに返事は帰って来なかった。息が荒れてるため、相当走ったのだろう。
リタ「…ええ…すぐにフッデン様がお出でなさる…私達は救われるわ…」
安堵の声か、それともすでに死ぬ運命を受け止めた声なのか。シエルには検討も付かなかった。シエルはすぐにバッグの中からやくそうを擂り潰して作られた回復薬を取り出し、リタへすこし飲ませる。
リタはすこし落ち着き、シエルの頬を右手で撫でた。すぐに、コト…コト…と足音を立てながら螺旋階段から降りてくる人影。写真では見たことあったが本人は見たことなかった。
フッデン様が現れると、住民達は感激の言葉、そして安心、助かったという声。
フッデン様はドワーフの賢者であり、少し太り気味の男性である。白髪が顔全体を覆い、両目になんと黒のアイパッチをつけている。フッデン様は盲目の賢者であり、いつも装備している杖で現状を把握している。フッデン様は人のいるほうを見上げて口を開く。
フッデン「落ち着きたまえ、サファイの民よ。じきに兵士長が反重力マシンボードに乗って帰ってくるだろう。」
窓硝子が割れ、マシンボードに乗りながらびしょ濡れの兵士長『ハーバート』が帰ってくる。ハーバートはオーガの屈強そうな男であり、飛空艇作成に携わったフッデンと同じく素晴らしいお方だ。
ハーバート「フッデン様!これは…!?」
フッデン「魔王軍が攻めてきたのだ…このまま中心エンジンまで襲われたらこの飛空艇は墜落するだろう…」
ハーバート「な、なんと……」
ハーバート様がここまで絶望するのも仕方がなかった。なんせここは飛空艇、大空の街だ。地上から助けが来る可能性なんて皆無だった。
ハーバート「……いいか!兵士軍よ!魔物達を一匹残らず殲滅させるのだ!フッデン様と住民は中心エンジンへ向かい、防衛を行え!エンジンさえ守り切れば俺たちの船は墜落しない!」
ハーバートは決死の判断でボロボロの兵士軍を立たせ、魔物達を止めにいく。
住民達はハーバートの言葉を聞き城の地下階段に向かって走る。
ハーバートは思い出したような顔をして走ってシエルの元へ駆け寄り、乗ってきたマシンボードを渡す。
シエルは険しい顔をしながら首を立てに降りギュッとマシンボードを抱える。
シエルとリタも人混みと連なり、中心エンジンへ走る。地下道の光は点滅し、所々瓦礫が落ちたところが見られた。
中心エンジンに全員到着すると、皆床に崩れるように座り込む。それもそのはず、地下道はかなり長く、しかも魔物が迫っているというのだ。