リタ「ハーバート様大丈夫かな…」
シエル「大丈夫さ……なんせハーバート様は俺を倒した男だぜ?」
シエルの父とハーバートは友人関係であった。そのためハーバートと話す機会はかなりあったのだ。度々剣技を教わっていたため、彼の強さは身に染みていた。
フッデン「…シエル。」
気を抜いていたのか、いきなり声をかけられ、しかも国を創立した大賢者様から呼ばれたため声が出なかった。振り向き、フッデンのほうへ走って近寄る。
シエル「な、なんでしょうか!」
息切れしながらもフッデンの用件を聞こうと険しい顔をしながら瞳を見つめる。
フッデン「まほうのせいすいはあるか?」
シエルは一目散にバッグの中を漁り、まほうのせいすいを渡す。
フッデン「さすがどうぐ使いだ……」
まほうのせいすいを瓶を開け、口へ近付け一気に飲み干す。老人とは思えないほど豪快だったため驚いた表情を見せる。
フッデン「…感謝するぞシエルよ。」
シエルに軽く一礼をすると、シエルはとんでもないと首を降り、背中を見せないで3歩下がる。
…何十分経っただろうか。いや、すでに一時間過ぎたのだろうか?時計がない地下室では案の定感覚が狂うものだ。
地下道から足音がする。
住民たちは途端に顔色がよくなり、入ってきた扉を希望の眼差しで見つめる。
そして扉が開く。
そこに居たのは、ハーバートではなかった。猛獣のような紫色の毛を生やし、筋肉質な体の二足歩行の魔物。髑髏の鎧を着て、闇のオーラを纏わせた大剣を片手で持っていた。
住民たちは驚愕の顔に変化し、顔色は先程よりさらに暗くなる。しかし顔は誰一人として俯かず、この絶望のような現実から目を逸らそうとしない。否、逸らせなかった。なんとその魔物のもう片方の手は気絶したハーバートの首を掴んでいた。
「…ここか?天空のオーブが司る地は」
住民たちの顔が見えないかのように、口を開いた。赤い目がエンジンを見つめる。
その通りだった。エンジンというのは天空のオーブのことだった。
フッデンは顔をしかめながら魔物を見えない眼で見つめる。
フッデン「キサマ…ハーバートになにをした…!」
「コイツか?我が言う必要はない…あぁ、よく考えれば"これ"はもう荷物だったな」
魔物はすぐ近くの大窓を開ける。シエルはとんでもないことをするということに気付き、飛びかかって阻止しようとするも、リタに腕を捕まれ、引き戻される。リタは唇を噛みながら悔みの顔をして、顔を左右に振る。
住民たちも見ているだけしかできなかった。逆らうと死ぬことは一目瞭然だったからだ。
魔物は気絶したハーバート兵士長を大窓から首を掴んで投げ落とした。
魔物はハーバートを投げ捨てると静かにエンジンに向かって指を指す。魔法を詠唱する…がなんと魔物に向かって火炎の玉が投げ飛ばされる。
フッデンがメラミを唱えたのだ。しかし魔物には通用しなかった。
魔物は邪悪な笑みを浮かべて、フッデンに人差し指を指す。
…街から大きな爆発音が聞こえた。爆発が爆発を呼び、爆発の連鎖が起きた。魔物は上を見て険しい顔つきになる。
「…まあいい!もうじきこの飛空艇はアストルティアへ墜落する!天空のオーブの魔力ももうじき消え去るだろう!」
魔物は大窓から飛び降りる。窓から見れるのは大勢の空を飛ぶ魔物が去ったところだった。恐らく本当に墜落するのだろう。
フッデンは混乱してる住民に声をかける。
フッデン「諸君ら!壁に捕まってなさい!奇跡に命を捧げなさい!」
フッデンの言う通り、各々壁に捕まる。爆発がさらに増していく、恐らく街は火の海なんだろう。
リタがどこか優しい声音でシエルに声をかける。いつもの笑顔とはまた違った、優しさ溢れる笑顔をしながら。
「…フッデン様に呼ばれてるよ」
シエルはフッデン様の元へ駆け寄る。すぐにフッデン様は口を開く。
フッデン「シエルよ、お前はマシンボードで逃げなさい」
シエル「! …し、しかし!リタ…いや、住民たちやフッデン様は…」
フッデン「安心しなさい…街の方々は必ず守る。…いいか、シエルよ。この飛空艇はアストルティアのどこかに墜落をする…地上に行き、わしらを見つけてくれ。」
シエル「な、なぜ俺なんですか!」
フッデン「…よいか、シエルよ。」
フッデン「お主の亡き父は空に浮かぶ伝説の島を見たといっていたな…それで空賊になりたい、と父が言ってたが本当か?」
シエル「そ、その通りですが…!」
フッデン「…お主はな。空に愛されている…『創造神グランゼニス』に愛されているのだ。」
シエル「な、なにをおっしゃっているんですか…!俺は…」
フッデン「…わしを信じなさい」