【グランゼドーラ劇場にて】
真夜中の劇場付近は誰もおらず、この最大災惡の悪事が外に聞こえることがないだろう。中は熱気が溢れており、拍手喝采が起きている。
金色の衣服を纏った男性が台に立っており、横には五人ずつボディーガードのようなものが威圧を放ちながら佇んでいる。
男性が手をあげると拍手が一斉に止まる。
「我が友よ、同胞よ。この演説は、将来必ず伝説となり、称えられる。これこそ、時代を変えられる最後のチャンスだ。」
男性は集まった観客を見渡し、顔色を伺う。すべてこの国、世界に憎悪を抱いたものであった。それは五種族に竜族、魔族、そして魔物。
「諸君、見よ。この哀れなる人間どもを。」
宙に浮くのは金の彫像と化した五人の人間であった。五人は目を見開き、絶望した表情、そして逃げ出そうとしている姿は彼の言うとおり哀れであった。
「彼等は己の欲望のままに生きてゆき、"カッコよくて最強の勇者姫"という虚言を信じ、この有り余る金に惑わされた愚か者だ。」
ザワザワとしてきた場の中でも、淡々と冷たく霊気の混じった言葉を発する。
「君たちは自らの意思を持ってここへやってきた。ならば知っているはずであろう。あの勇者姫、盟友の下らない伝説を。ナドラガンドの解放?魔界の大魔王が盟友?五大陸を救った英雄?」
皮肉気味に、小馬鹿にしたような声音で喋る。男は両手をやれやれ、と動かす。
「あれはすべて自己顕示欲という泥で塗りたくられし、ただの嘘だ。となると我らが信じればいいものとはなんだ?勇者姫、盟友に対抗できる唯一無二の存在こそ、悪の根元。そう、魔王だ。しかし魔王も今や盟友の嘘に躍らされし人形だ。」
「信じていいものは自分のみだ。ここにいる大衆すべて我が体の一部だ。今、この場には複数の同じ意思を持った人間がいるのではない。強大な正義の心を持つ1人の英雄なのだ。我等はこの1つを身体を持ってあの悪の根元、そしてアストルティアを狂わした黒幕、勇者姫アンルシアに裁きの雷を下し、盟友に因果の刃を貫かせるのだ!」
大衆は一気にマグマのような歓声を上げる。男性は右手を宙に浮いた5つの金の彫像へ向ける。
「1つの命が惜しいという心の弱さっ!」
男性が大きく右手を振り落とすと金の塊となった1人のオーガの女性が地面へと叩き付けられ、粉々に砕け散る。
男性がまた右手を彫像へ向ける。
「名誉のために動く心の醜くさっ!」
またも右手を振り落とすと彫像が地面へと叩き付けられる。
「このような現状となった今でも行動に移さない心の怠惰さっ!」
「勇者姫、盟友の輝きに嫉妬して行動に移す心の強欲さ!」
「そして…金というこの世でもっとも下らない争いの種のために動く心の恐ろしさ!」
5つの彫像が彼の声と共に粉々に砕け散った。青い眼光は破片へと目を向ける。怒りが現実となったのか、破片は青い炎となり、消えて行く。
「それを今粉々に破壊したっ!さあっ!今我らは1つの身体となったァッ!これから行う世界最大の革命への決意が幕を開けたのだァッ!」
両手を大きく天井へ開け、これまでにない声量で会場全体へ響かせる。それに比例して大衆の歓声も大きくなっていく。
「たとえ世界を分断させ、盟友を消そうとした冥王ネルゲルや勇者姫、盟友の世界を破滅へと追い込み、新たな世界を造りだそうとした創造神マデサゴーラが居なくなろうとしても、このラナータ・カルマッソが居るかぎり、正義を貫く意思は永久に続き、この戦いこそ勇者姫と盟友の伝説の終止符となるだろう!」
言い終わった後に、杯を右手で持ち上げる。
「さぁ、杯を掲げよう!そして共に叫ぼう!」
この瞬間、大勢の大衆と1人の男性は1つの身体となったのだ。声が同時に発せられたのは、奇跡かそれとも必然か。
『勇者姫と盟友の伝説に終止符をっ!』