塩「何の絵を描いてるんだわ?」
もっち「ふふ、とってもだいじなこと!」
子供たちのいなくなったセレドの町。大人になりきれなかった塩ともっちは、坂の上の小さな部屋で、二人でお絵描きをしていた。
塩「ゴマの部分が上手く描けないわ!」
塩は大きなあんぱんの絵を描いていた。
もっち「私の絵、見てみて!」
塩「これは右にいる人は、もっちだわ!左にいる人は、誰だか分からないわ!」
もっち「もう!ちゃんと思い出してよ!」
塩は必死で思い出そうとした。でも、どうしても思い出すことができなかった。
もっち「思い出そうとしてくれたんだね。ありがとうね」
忘れてしまった思い出にすがり続ける事と、思い出す暇もないくらいに大人になってしまう事は、いったいどちらが悲しい事なのだろう。塩はそんなことを頭に思い浮かべていた。
もっち「ねぇ、お兄さんって、呼んでもいいかな?」
夕陽に照らされた山の稜線は、まるで宝石の様にキラキラと光っていた。オレンジ色に染まる世界にどこまでも溶けていく。かすれていく意識の中で、もう手に届くことのない彼女の姿を見た気がした。
夕刻を告げる鐘の音が響く。坂の上の小さな部屋で、塩はただ一人佇んでいた。遠くで子供たちの笑い声が聴こえる。
塩「どうして泣いてたんだろうわ?」
塩はひとり、苦笑いをするのであった。