ここは地の果て、アラハギーロ。
何かを終えた人が、いつか辿り着く街。
一代で巨万の富を築き上げた人。
はたまた、夢やぶれて、打ち砕かれた人。
何かを始める前に終わってしまった人もいる。
しかし、誰も野暮なことは聞きはしない。
浴びるように酒を飲み、泥のように眠る。
この街にあるのは、ただそれだけなのだ。
キラ「塩さん、あっしはねぇ、行きたい場所はすべて行ったんですわ!食べたいものもすべて食べた!飲みたいものもすべて飲んだんですわ!」
塩「おうわ!とりあえず飲もうわ!」
キラ「でね、塩さん、あっしはね、旅をしたい場所は、すべて旅をしてきたんですわ!この世のすべてを旅してきたのかもしれんですわ!」
塩「おうわおうわ!もっと飲もうわ!」
砂漠の夜は寒暖差が激しい。
気味が悪いほどに透き通った空気。
遠くの空で一番星が輝いていた。
キラ「塩さん、知ってますか?あの星の光ってのはね、ずっとずっと昔に放たれた光なんですよ!だから、あの星が今も存在するかなんて、誰にも分かりゃしないんですよ!」
それは塩たちもきっと同じなのだろう。何も思わなくなって、何も感じなくなって、どれくらいの月日が流れたのだろう。きっと今感じているのは今現在の感情ではない。遠い昔に放たれた感情に面影を重ねて、たぐりよせるように何かを懐かしんでいるだけなのだ。
そんな時、急に顔に水をかけられた。
塩「冷たっ、目に何かかかったわ!」
キラ「塩さん、ハイボールの水鉄砲でやんすよ!」
塩「なにすんだわ!!」
塩も負けじと、ピッチャーごと、キラにビールをぶっかけてやった。キラはびしょ濡れになった。さすがにやりすぎたかもしれない。
そう思ったのも束の間、キラは店の奥にあった樽を軽々と持ち上げて、凄い勢いでこちらに走ってくる。塩はすかさず走って逃げた。
キラ「塩さん、待つでやんすよ!」
塩「お、おい、なんか怖いわ!」
塩は走った。キラも走った。砂漠の砂に足をからめとられて塩は転んだ。キラも転んでいた。満天の星空の下、砂漠の他に何もなく、ただ塩とキラだけが走っていた。塩は笑っていた。キラも笑っていた。
キラ「塩さん、いや、兄さん、まだまだ旅は終わってないでやんすよ!!」
いつから走っていて、どこまで走っていたのか、塩にはわからない。気がついたら、砂漠の真ん中で、塩は一人で大の字で寝転んでいた。
塩「さすがに飲みすぎたわ」
夜明け前のアラハギーロ。遠くの山々は、あまり見たことのない紫色の空に包まれていた。