或晴れた日の正午である。私は陰鬱な気分で痛むこめかみを抑へながら、燦々と晴れ渡る空を、恨めしさうに眺めてゐた。陽の光には日々感謝をしてゐるが、暑過ぎるのは困り者であつた。
火照る身体を冷やさうと、服を脱ぎ捨てヒヤドの呪文を唱へてみるものの、一向に体感温度が下がる気配はなかつた。このままでは不味ひと、思考を巡らせる。が、暑さでまともに機能しない頭では、これ以上の策は思ひ浮かばなかつた。それどころか、余計に頭痛がひどくなるのだから、たまつたものではなひ。
生温ひ汗が身体中の隅々から流れ落ちてゐく感覚に、謂ひやうのない気色悪さを覚へ、ますますどんよりと気分が重くなつてゐく。心無しか、更に気温が上昇してゐるやうにも感じられた。
周囲の大地や岩は、触れづとも熱さで燃えてゐるのが解るほどに、熱気を放つてゐる。陽炎が揺らめき、このまま私も溶けて混ざつてしまふのでは、とさう不安になつてしまふほど、私は暑さに参つてしまつてゐた。
遠くから、誰かが向かつて来るのが見える。つひには、熱で頭がおかしくなつたのかと思つた。此処は絶島であり、国から調査と開拓を任されてゐる私以外には、一人として姿を見たことはなかつたからである。が、人影が更に近づひてきて、その姿が鮮明になると、本当に誰かがこの絶島へやつて来たようであること分かつた。その人影の耳は斜めに尖り、肌の色は病的に青白かつた。背丈は子供のやうに低く、特徴的な衣服を身に纏つてゐる。
彼は、名をアサナギと名乗つた。何でも、現代より失はれし古代呪文を復活させるべく、各地を巡つて旅をしてゐるらしひ。彼が私に体調が優れなひのか、と尋ねてきたので、そうだ、暑くて死にそうだと答へた。すると、彼は神妙な面持ちでかう問ふてきた。この天候を何とかする術がある。だが、今からすることは絶対に他言しなひで頂きたひーー私は彼が言ひ終へるのと同時に、首を大きく縦に降つた。無論、今にも意識を失いさうな私に断る理由はなかつた。
それは余りにも衝撃的な光景であつた。ラナルフターーアサナギがさう小さく唱へた瞬間、憎きほどに上空で爛々と輝き、大地を、私を熱してゐたはずの太陽が、瞬きをする間もなく雲に覆われ、気が付けば、辺り一面に夜の帳が降りてゐた。私の脳味噌は、逃げるかのやうに、許容し難ひ先程の出来事を頭の隅へと追ひやり、唯、やうやく訪れた冷涼感に、熱で火照りに火照つた身体を預けるのであつた。
アサナギは、私の容態が落ち着ひたのを確認すると、談笑する間もなく去つて行つた。私は、やつと体内に篭つた熱が抜け切ると、ぼんやりと今日の事を思ひ返した。正に生き絶える寸前であつた。普段、何気なく預かつてゐる自然の恩恵も、一歩匙加減が変はるだけで、かうも恐ろしきものなのか。人間とはかうにも小さき存在であつたのか。さう感ぢづにはゐられなかつた。さうして、今生きてゐる喜びに、改めて深く感謝をしたのである。
今日、朝起きたら頭が痛いし、汗びっしょりだし、気分悪いし。クッソ暑いし、あ、これ熱中症……。ってなったんで休みました。皆さんも気をつけてください。