新庄剛志氏が日本ハムファイターズの「ビッグボス」就任で話題だが、
ロック界のボスといえばブルース・スプリングスティーンだ。
一番有名な曲は「ボーン・イン・ザ・USA」だろうか。
これはロック史上、もっとも不幸な誤解をされた曲でもある。
ベトナム戦争の悲劇を背景に、「やれやれ俺はアメリカなんかに生まれちまったよ」
という自虐的なニュアンスを描いた歌詞なのだが、
時のレーガン大統領の選挙活動にも利用され、
はからずも国威発揚ソングとしてまかり通ってしまうことになった。
やっぱアメリカ人って単純だよね……って思っちゃうけど、
これから書くことには関係ないのでここで端折るとしよう。
ボスの名曲のひとつに「ハングリー・ハート」がある。
サビの歌詞はこうだ。
Everybody's got a hungry heart
Everybody's got a hungry heart
Lay down your money
and you play your part
Everybody's got a hungry heart
誰もが飢えた心を持っている
誰もが満たされないでいる
金を稼ぎ、自分の役割を演じながら
それでも満たされないでいるんだ
昔は軽く聴き流していたが、なるほど今になってみると
なかなか身につまされる歌詞である。
オーブ工が最たる金策手段だった初期、私はひどく飢えていた。
理論値、準理論値の武器は指をくわえるしかない雲の上の値段で、
羨望のあまりいわゆる「職人勢」には揶揄するような感情を抱いていた。
しかし金策のあり方を再構築し、自分が職人勢になって
理論値の武器も無理なく手に入るようになったからといって、
飢えが満たされたかというとまったくそんなことはない。
年齢による衰えで最前線のバトルからは遠ざかり、
プレイスタイルの合わないフレは離れてゆき、
心に別の空白が空いただけだ。それでも私はドラクエXという箱庭で、
自分に割り振られた役割を演じていく(ロールプレイング)しかないのだ。
ボスと私では社会的立場から何からまるっきり違うので、
これを共感というのもおこがましいのだが、
誰だって充実しているわけではなく、ハングリー・ハートを
抱えているーーその一点が共有できただけでも、
この曲は私にとって特別な意味のある一曲である。
まったく人生ってやつは何かを得ると引き換えに
何かを失うようにできている、えらく帳尻が合っちまうものだ。