カルドセクシの冒険日誌

SNS時代を象徴してる言葉と思うんだけど、私が聞いただけで
ビクッとなるほど毛嫌いしてるのは「拡散」だ。
リツイートアイコンをタップしただけで何かした気になるような、
膨らんでく数字を倍々ゲームのように眺めるだけで、
その行く末には誰も責任を取ろうとしないような、
非常に軽い言葉に感じる。トップインフルエンサーの
ヒカキンからして「拡散」を多用するからね、
一般の人が疑問もなく使うのも無理からぬことなのだが……。

コロナ禍においては医療関係者の打ち明ける内部情報なるものが、
頻繁に「拡散」された。でも普通に考えれば何があろうと、
そういったことを外部に漏らしてはならないはずなのだ。
拡散に手を貸した人は純粋な気持ちでしかなくても、私は闇を感じてしまう。
闇の中にはフィクション作家がいるような気がする。
拡散されること自体が目的の、愉快犯の影がちらついてしまう。

「拡散」の中でも闇が深いのは犯行予告、テロ予告の類だ。
予告通りにテロが遂行されたことが今までに一度でもあっただろうか？
いつ、どこで行われるかわからないのがテロの本質なのだから、
その予告を拡散するのはピントがずれている。
数字が膨れ上がるのを見て発信者はせせら笑っているだろう。
社会に無用な恐怖、混乱をもたらす犯罪行為の、
片棒をかついでいるとすらいえるのだ。

ならば、何もせず黙っていたらいいのかって、そういうことじゃない。
優れた情報は社会全体で共有されるべきだ。
我々がすべきなのは玉石混淆の情報の海から、
玉だけをすくい取る観察眼、審美眼、ネットリテラシーをみがくことだ。
それは右から左へ、漫然と「拡散」してるだけじゃ決して身につかない。

どちらかといえば無意識的になのだが、ある時期から私は、
この「拡散」文化に抗う姿勢をとってきたように思う。
ツイッターはリツイートのできない鍵垢だし、この冒険日誌も
「拡散」される性質のものではない。加速度的に拡散されていく中で、
自分の言葉が恣意的に切り取られ、ひとり歩きするのが怖かったのかもしれない。
しかし一歩外に目を向ければ、そこはもう「拡散」の坩堝だ。

ドラクエ界では富裕層がゴールド、良装備、マイタウン権利証などを釣り餌に、
リツイート合戦を繰り広げている。資産を再分配して
アストルティア経済を均す姿勢、それ自体は良い。
しかし「拡散」されて膨れ上がる数字を、それを眺める愉悦を、
いじわるな言い方をすれば金で買っているとも取れる。
踊るアホウに見るアホウというが、金持ちの道楽にどこまで、
踊らされるべきなのか——？　リツイートアイコンをタップする時、
そこでは大げさでなくあなたの生き方が問われている。