「ああ、おかえりイア。…ん、今寝てただろって?ばーか、んな訳ねえだろ」
「ああ…お前帰ってたの?全然気付かなかったわ。お前っていつもうるさいけど何か影薄いんだよなー」
「んー、おかえり。…何、こっち見て挨拶しろって?やだよ、今俺は全身全霊をかけてこの編み物に集中してんだから。––––は?何編んでんのって?…んなもんタワシに決まってんだろ、タ・ワ・シ」
彼の名前はルイース。かの麗しき美貌と高らかな歌声が特徴のウェディ族である。
漆黒とも形容してしまいそうな程に真っ黒な髪を持ち、種族特有の甘いマスクは、にこりと微笑めば10人中10人の女性が恋に落ちてしまいそうだが、実際には彼はそんなものに一切興味が無いのだろうと思う。
そんな彼を雇ってからおよそ4ヶ月は経った頃だろうか…出逢った当初から依然として変わらない、そのコンシェルジェにしては到底あり得ない口調は、最早我が家ではお馴染みとなりつつあった。日替り討伐や職人金策に心身ともに疲弊して帰ってくる私を包み込む、彼の心ない罵倒。次第に私は、彼のそんな言葉は愛情の裏返しなのではないかと思い始めたのだが……
ある日、いつものように日替り討伐から帰ってきた私を迎えたのは、 心ない罵倒などではなく、なんとも優しげに微笑みをたたえたルイースの姿だった。
「おかえりイア。ベッドのシーツ変えておいたからな」
目を弓なりに細め、形の良い唇をほんの少しだけだが持ち上げている。それは、この家に彼が来てから『何度か』見た事がある彼の希少な笑顔だった。
『何度か』と、いうのは…彼がわたしにこんな笑顔を向けるのは、実は初めてではない。
そう…実を言うと、彼には私がいない間に自由時間というものが設けられており、その間にどこへ行こうが誰と会おうが雇用主の私には一切関係が無い。しかし彼は時々、ほんの気まぐれを起こしては私にお土産を買ってくるのだ。
そのお土産というのは、出掛けた先の街で特に有名なお菓子であったりお弁当であったりと、実に様々だ。正直初めて貰った時には、あまりの嬉しさに少々弾んだりもしたのだが…