【注意】
・蒼天のソウラの世界観ベースの二次創作
・よその子出演
・作者の独自解釈有
以前Twitterであげた話を、もう少し色んな人に読んでもらいたいなと日誌に載せました。
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ドルワーム王国の教会前広場に小さな機械仕掛けの特設舞台が建った。
そこで開催される、アストルティアを股にかけるヒーロー『ドルブレイブ』のショーを観ようと近場から、あるいはわざわざ遠くから沢山のファンが集まっている。
ドルブレイブのショーは大陸毎に特徴があり、エルトナのショーなら殺陣に重きを置き、ウェナのショーならミュージカル仕立て…などなど、そしてドルワームを有するドワチャッカのショーは神カラクリを用いた舞台装置やワイヤーアクションで派手に魅せてくれる為にことさらファンが多い。
そういう装置を用いるという事は『本物』では無いのだが、ヒーローに対する憧れはどこの演出側も観客側も本気であり、本物の顔に泥を塗らぬよう己を律し策を凝らし、常に本物の近くにあろうとするタフガイ・ナイスガイなのだ。
そんな中に、クレイカラーのモッズコートに身を包んだ歳の頃12~3歳程の少年が混ざっていた。
名をハクト、彼もまたドルブレイブを愛するナイスガイである。
※
「しまった、完全に出遅れた…」
ハクトはがっくりうなだれて怠そうに首筋に手をやった。
ドルワーム特設ステージは全席自由早い者勝ち、彼が会場に着いた頃にはめぼしい席はほぼ埋まり、立ち見の最前列ならいけるといった具合だった。
(父さんの長話がなければなぁ…)
内心で愚痴を言いながら、手すりにもたれてドリンクを口にふくむ。
だいぶ後ろの位置なので演者は豆粒の如しだが、ステージ全体を見渡せるのは中々壮観だ。
今回の段のパンフレットを読みながら開幕を待っていると、足元にもさもさした感覚が走る。
視線を向けると、随分と小柄なプクリポがステージを観ようと背伸びをしたり手すりに手を伸ばしたりと四苦八苦していた。
ジャンプをしないのは、両手で抱えたポップコーンの為だろう。
不憫に思ったハクトは周りを見回し、スタッフを見つけると手を挙げて呼びかける。
「すみませーん、こっちに踏み台をお願いします」
立ち見のプクリポ用踏み台を用意してもらい、小さなプクリポに促してみた。
「もしもし、よろしかったら踏み台をどうぞ?」
プクリポは胡麻の様なポチ目を見開き輝かせた。
「ふぉぉ、ありがとう!あの、これよかったら一緒に食べない?」
ごましおと名乗ったプクリポは何度も頭を下げて、持っていたポップコーンを差し出した。
そうしてごましおにとっては大盛りの、ハクトにとってはMサイズのポップコーンを半分こしながら一緒にショーを楽しんだのだった。
※
「すごかったねー!」
「まさかドルセリオンまで出てくるとは!」
ショーが終わり、興奮さめやらぬハクトとごましおは会場を後にする。
暫くは広場横のベンチでショーの感想を話し合っていたが、ある時間を境にごましおがそわそわ落ち着かなくなってきた。
「ごましおくん、どうかしましたか?」
「あー、うー、えーっと……」
煮え切らない態度でおずおずとごましおが一枚の紙を見せた。
「物販の整理券……?あっ!これもうすぐ並ぶ時間ですよ?」
「でもぉ、もうちょっとショーの話したいし……」
その名残惜しさはハクトにも理解できた。
好きな物の話ができるのは楽しい、ましてや新しい視点の話が聞けるとなれば心が躍る。
腕時計をちらりと見ると、夕飯の時間までまだまだ余裕があった。
「分かりました、ここで待ってます。ぼくももう少し喋りたいですし!」
ハクトの思い掛けない提案に、ごましおは再び水飲み鳥の如く頭を下げて物販のテントに走って行った。
それを見送り、ハクトは再びベンチに腰をかける。
日陰に吹く乾いた風が、興奮した汗ばむ頬をすっと撫でた。