雪の朝、表を走り回って帰ってきた子ホイミンが「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」と言って、濡れてメタルホイミンのようになった両手を母さんホイミンの前にさしだしました。
母さんホイミンは冷え切った坊やの手を握りながら「大丈夫、転生はしてないからじきに治るよ」と言いましたが、かあいい坊やの手がメタル化したら大変ですから、夜になったら、町まで行って、坊やのお手々にあうような皮の手袋を買ってやろうと思いました。
夜になり、ホイミスライムの親子はえっちらおっちら、町に向かいました。
やがて、行手にぽっつりあかりが一つ見え始めました。それを子供のホイミンが見つけて、「母ちゃん、お星さまは、あんな低いところにも落ちてるのねえ」とききました。
「あれはお星さまじゃないのよ」と言って、その時母さんホイミンの足はすくんでしまいました。
「あれはイイネ!の光なんだよ」
その飛び交うイイネ!を見たとき、ある時町へお友達と出かけて行って、とんだめにあったことを思い出しました。
およしなさいっていうのもきかないで、お友達のホイミンが、グレン1鯖でダイス詐欺をしようとして、スペシャルタスクフォースに見つかって、さんざ追いまくられて、ぶるぶる、ぼく悪いスライムじゃないよ。と言って逃げてきたことを思い出しました。
「母ちゃん何してんの、早く行こうよ」と子供のホイミンが足の下から言うのでしたが、母さんホイミンはどうしても足がすすまないのでした。そこで、しかたがないので、坊やだけを一人で町まで行かせることになりました。
「坊やお手々を片方お出し」と母さんホイミンがいいました。その手を、母さんホイミンはしばらく握っている間に、可愛い人間の子供の手にしてしまいました。坊やのホイミンはその手をひろげたり握ったり、つねって見たり、嗅いでみたりしました。
「何だか変だな母ちゃん、これなあに?」と言って、雪あかりに、またその、人間の手に変えられてしまった自分の手をしげしげと見つめました。
「それは人間の手よ。いいかい坊や、町へ行ったらね、たくさんのバザーがあるからね、まず表にレンダーシアバザーって看板のかかっている家を探すんだよ。それが見つかったらね、トントンと戸を叩いて、今晩はって言うんだよ。そうするとね、中から人間が、すこうし戸をあけるからね、その戸の隙間すきまから、こっちの手、ほらこの人間の手をさし入れてね、1Gで売ってる皮のてぶくろ+1ちょうだいって言うんだよ、わかったね、決して、レア泥つきを買っちゃ駄目よ」と母さんホイミンは言いきかせました。
「どうして?」と坊やのホイミンはききかえしました。
「人間はね、相手がモンスターだとわかると、手袋を売ってくれないんだよ、あと皮のてぶくろ+1は捨て値で売られてるのがあるんだよ」
「ふーん」
「決して、こっちの手を出しちゃいけないよ、こっちの方、ほら人間の手の方をさしだすんだよ」と言って、母さんホイミンは、持って来た1Gを、人間の手の方へ握らせてやりました。
子ホイミンはみんなのイイネ!を頼りに町へ向かいました。始めのうちは一つきりだったイイネ!が二つになり三つになり、はては十にもふえました。
やがて町に入った子ホイミンは母さんホイミンに教えられたとおり、レンダーシアバザーをさがします。
やっとでバザーを見つけた子ホイミンは、これまた教えられたとおりにトントンと戸を叩いて、今晩は、と言いました。
「このお手々にちょうどいい1Gで売ってる皮のてぶくろ+1下さい」
しかし初めての町に面喰っていた子ホイミンは間違えて人間の手ではないほう、ホイミスライムの手を差し出してしまいました。
するとバザーのおじさんは、おやおやと思いました。ホイミンの手です。ホイミスライムが皮のてぶくろをくれと言うのです。ホイミスライムは皮のてぶくろは装備できません。
ホイミスライムは1Gを差し出してきました。
おじさんは40Gで売っている麻のてぶくろを渡してあげました。
「はいよっ、ここで装備していくかい?」
子ホイミンは →はい と答え、喜んで麻のてぶくろを装備していきました。
なんだかとても暖かい気持ちになりました。
町から久遠の森に戻る途中、子ホイミンは母さんホイミンに言いました。
「母ちゃん、人間ってちっとも怖かないや」
「どうして?」
「ぼく、間違えて本当のお手々出しちゃったの。でもバザーのおじさん、暖かい手袋くれたもの」
と言って麻の手袋のはまった両手をパンパンやって見せました。母さんホイミンは、
「まあ!」とあきれましたが、皮のてぶくろはホイミスライムには装備できないことを思い出して、
「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」とつぶやきました。おしまい。