※この日誌にはドラゴンクエスト3の一部ネタバレとクエスト「大盗賊の伝説」の2話くらいまでのネタバレをほんのり含みます。未クリアでもあまり影響は無いとは思いますが、気になる方はブラウザバックをお願いします。
「なぁ、カンダタが仲間になるって知ってる?」
同じクラスのイトペがそんなことを言い出した1988年8月。ドラゴンクエスト3が発売されるやいなや大人気となってから半年後のプールサイド。
僕らは小学三年生で、夏休みに解放されている学校のプールは社交場だった。
「俺の上のほうのアニキの友達が知り合いから聞いた話らしいんだけど…」
休憩時間のプールサイドでイトペが話し始めたそんな又聞きの又聞きのようなウワサ話はこうだった。
「その知り合いの人ってのがコンピューターの天才でさ。プログラムをハッキングしてわかったらしいんだけど、カンダタを仲間にすることができるんだって。でも文字数の制限があるからカンダタじゃなくて『カンタタ』になっちゃうらしいけど」
「コンピューターの天才」「プログラムをハッキング」という、いかにも小学生な素敵ワードに頭がクラクラしてくるけど、この際そこは無視していただきたい。「文字数の制限のせいでカンタタ」という点は、本名がノブヒトだったために「ノフヒト」でのプレイをせざるを得なかったイトペの心の叫びでもあったと思っていただきたい。
プールから拾ってきたオセロ状の塩素で水切りをしながら、イトペが続ける。
「ランシールの洞窟ってあるじゃん?あそこで一人になったままシャンパーニの塔にいって、そのままカンダタを倒すと仲間になるんだってさ」
いまにすれば、これは後の世で「ランシールバグ」と呼ばれているものが間違った形で伝わっていること、そしてシャンパーニの塔でのカンダタ一戦目が実はスルーできる仕様であることがあまり知られていなかった為に、そのような間違ったウワサが生まれたのだとわかる。
実際のランシールバグにそのような仕様はないし、タイトル画面まで容量を削ってシンプルなものにしたドラクエ3にカンダタの仲間データなんてものが入る隙間なんてあるはずがない。
しかしながら当時の僕らは小学三年生。裏ワザの情報は大技林を待つより他なかったし、裏ワザについて「どうしてそういう現象が起こるのか?」を考えることもしなかった。インターネットが普及するのはずっと後のことだ。
プールの休憩時間は終わり、もうプールに入れる。
しかし僕はもう、プールなんてどうでもよくなっていた。僕の心は既に、そして、伝説へ動きだしていた。
「なあ、お昼ご飯食べたら俺んち集合でさっきの裏ワザ試そうぜ!」
お昼ご飯の焼きそばをかっこんで、イトペともう一人のクラスメイト、マッスーを待つ。
夏休みの心霊特集を組んでいたテレビを見ながら待つこと30分、自転車を走らせてイトペとマッスーがやってきた。
手にはもちろん、ドラクエ3のカードリッジを握りしめていた。イトペのカードリッジにはマジックでデカデカと「いとう」と書いてあった。
(続く)