ミラカ 『 大丈夫。お姉ちゃんと女王様が、きっとみんなを守るからね 』
セレドの町。
この町は山岳中腹に存在するダーマ神殿のお膝元でもある。
神殿に訪れる巡礼者をもてなし、癒し、宿泊所となる為に作られたこの町。
そして、魔物の攻撃対象となる神殿がある以上、幾度の脅威にさらされ続けてきた街でもあった。
山岳中腹に神を祀る神殿が備え付けられる事は、珍しい話ではない。
人の信仰の対象の象徴である、神殿。
神の座である天空に出来るだけ近い位置へ作りたい。そして日の光に最も近い位置へ作りたい。
そんな信仰心が故に、建築に労力を要する山岳に、わざわざ神殿が建てられるのだ。
そして、神殿が山岳に好んで建築されるのには、もう一つの理由もある。
それは、敵対する勢力(他宗教)に侵攻された場合の、防衛力の為だ。
宗旨の異なる宗教間で発生する、宗教戦争。
神と悪魔が混在するこのアストルティアの歴史も、例外ではない。
山岳は自然の要害。幾度となく襲いかかる魔物達を、退け続けてきた実績が
この神殿と街にはあるのだ。
軍に属する人間は言う。
『 あそこは難攻不落の要塞だ 』
『 そうでしたか…やはり魔物たちが集結しているというのは事実だったのですね 』
監視班の報告を受けたリゼロッタは、整った眉をしかめた。
リゼロッタが町長となる前。この町にまだ大人達が居る頃から、魔物たちはこの町に。
神殿を目指して幾度となく侵攻を繰り返していた。
生き物としての正気を無くし、狂気の宿った目で押し寄せる魔物たち。
神と魔の戦い。
セレドの町の住人は、生まれながらにして戦いを強いられていた。
老いも若きも、戦いの訓練を施される街なのだ。
ミザール 『 弩(※1)班は、日々の練習で士気高く、いつでも行けます! 』
ミラカ 『 魔法班は、メラミ、ヒャダルコまで撃てます!近づく前に殲滅させますよ! 』
(※1)弩(いしゆみ≒クロスボウ)。ボウガンの事
大人のいない、子供だけの町。
残された彼らは今、自分たちの手で、自分たちの町を守らなくてはいけなかった。
彼らの親が帰ってくる場所を守る為。
町長であるリゼロッタは、乳幼児を除く、分別の判る年長者達を集め、魔物からこの町を守る為の
自衛力を準備していた。
力の無い子供でも使える弩。偉大なる力を借りる魔法。
体格で劣る子供たちが使える"力"。彼女は遠距離攻撃の部隊を編成したのだった。
守るに易い山岳に陣取り、無数の遠距離射撃で敵を圧倒する。
戦術としては正しい選択だ。聡明なリゼロッタらしい戦術の選択であろう。
だが、リゼロッタは呟く。
『 これで本当に良かったのかしら… 』
今までは大人達が守ってくれた。今はもう、その姿はない。
子供達だけで、選択をしなければならないのだ。
よぎる一抹の不安。だが時間はそれを許さなかった。
遠距離会話を可能とする魔法の鏡から、偵察隊の声が響く。
『 魔物達が動き始めました! 多数のバトルレックスが、山道沿いにそちらに向かっています! 』
セレドッド山道西部。バトルレックスの大群が進む。
リゼロッタは、部隊を切り立ったがけの上に配備した。
谷底となる道に向けて、弓矢と魔法を打ち下ろす戦法だ。
幾度となくセレドの街を守ってきたこの戦い方を、彼女は大人の姿から学んでいた。
これで、大丈夫なはず…
まだ幼い彼女は、自らにそう言い聞かせる。
その言葉を打ち消すように、大地が地鳴りで唸り始める。
彼方より、狂気の目をしたバトルレックスの大群が、押し寄せてきたのだ。
~To be continued~