そう。例えあなたの顔が見えなくても。
『こんばんは!』
夜遅くインするあたしに、今日も彼の元気な挨拶が響く。
彼がインした時に、あたしにくれる挨拶のチャット。
勢いよくくれる、元気のいいチャット。
彼の最初の印象は、『物静かな子』という印象。
フレがやっている小さなお店で知り合った彼。最初はあまりリアクション無かった彼。
彼の傍には、いつも彼女がいた。心優しい彼女。
彼女はいつも、彼の保護者のように、学生さんである彼を暖かく見守っていた。
彼女は、少しシャイな彼にいろいろ説いていた。
時にやさしく。時に凛と。
無口だった彼は、徐々にだけれど。 けど確実に、少しずつ変わっていった。
チャットの挨拶をくれたり。
時にイベントのお手伝いに手を上げてくれたりするようになっていった。
それは、普段接する機会の少ないあたしでも判る、彼の 『 成長 』 だった。
オンラインは、互いの顔の見えない世界。
あたしは、実はちょっとドライ。
オンラインでの限界という物を知っているつもりだった。
顔が互いに見えているリアルの世界ですら。
友人同僚とすれ違う事、ボタンの掛け違い、ザラにある。
そう。 だから。
顔の見えないオンラインのコミュニケーションなんて、と。
優しい彼女が彼に説く教えも。いつか壁にぶつかるんじゃないかって。
心配するときもあった。
けど彼らには。そんな身勝手な悲観論者の心配など無用だった。
彼女は暖かく、ずっと彼を見守り続けていた。
そして彼は。そんな彼女を慕い、素直に言葉に耳を傾け続けた。
ある日彼から、フレチャが来た。
『 共通のフレさんの誕生日が来週あります。是非いらして下さい 』
正直、驚いた。
そんな心のこもった交流をするまでに、成長していたなんて。
そしてその後。彼から何通もの手紙が来た。
その手紙には、誕生日のサプライズの段取りが細やかに書かれていた。
拙い個所もあったけど。そこには間違いなく、彼の想いがこもっていた。
暖かい、『 人を、祝福してあげたい。もてなしてあげたい 』 って心が。
サプライズの誕生日当日。そこには沢山の人が溢れかえっていた。
彼はたどたどしくも、その場を導いていた。
傍にいるのは彼女。
いつもと同じように、暖かく彼を見守っている姿が、そこにあった。
彼女の言葉に、素直に耳を傾け続けた彼。
彼を優しく、時に厳しく、導き続けた彼女。
心の中で、あたしは。彼と彼女に、素直に謝った。
勝手に限界を決めて、ごめんなさい。って。
オンラインでも、言葉は伝わる。成長はできるんですね。って。
子供達が持つ可能性。大人の持つ優しさ。可能性は、無限大だった。
彼はそう。眠りから目覚めた勇者のようだった。
彼女はそう。彼を導いた盟友のようだった。
バージョン2.0が間もなく終わるアストルティア。
そのサブタイトルは 『 眠れる勇者と 導きの盟友 』
私には彼らが。
若くて少し照れながらはにかむ勇者と、その姿を誇らしげに暖かく見つめる盟友に見えたのだった。
~Fin~