冒険者の道を選んだ以上、普通の人のような生き方や恋は出来ないことはわかっている。
友人が幸せを掴んでいく中。あの日あたしは、安定よりスリルを味わえる、冒険者の道を選んだ。
人助けをしたり、世界の平和のために少しでも力になったり、強い敵と戦ったり。
夢とロマンあふれる冒険者は、あたしにとって天職だった。今だって、その道を選んだ
ことに間違いは無いと思っている。
ただ、街行く幸せそうな恋人達が視界に入ると。女としての本能も、頭をよぎることもある。
普通に恋をして、普通に結婚して、子供を生んで、家庭を築く。
今は幸せ。でも、あんな幸せもあるんだなぁ…って。無意識に、頬が紅潮する。
ガッシャーン ! !
痛っ!
考えに耽りながら、ぼーっとドルボードを運転していたあたしは、地面に叩きつけられた。
どうやら、何かを轢いてしまったらしい…
そこには、激突の衝撃で半分翼がもげた、機械人形がいた。
ガチャコッコだ
~ マシン系 ~
『 からくり 』 を動力として動く機械人形。
その人形がなぜ生まれるのか。何故動くのかを、あたしは知らない。
一般的に彼らは、魔物が作り出しているといわれている。
命を持たない自動操縦の人形は、敵からすれば格好の戦力と言うわけだ
ガチャコッコは片翼を無くしながらも、殺気を持たない本能で尚攻撃を加えようと首のバネを伸ばす。
もちろん、その攻撃はあたしには届かない。不協和音を立てながら、機械人形は軋む。
~ 不快な機械音が、心の傷を掻き毟る ~
あたしの父は、レーンの村で建築技師を営んでいた。その父に連れられて、ガタラの町を訪れたことがある。
ドルワームにすむ高名な建築家の元を訪れたいという父の意向で、
あたしたち家族は、ドルワームに向かう途中のガタラで一泊したのだ。
海の上に住んでいたあたしにとって、ガタラの町は驚きの連続であった。
町中に転がる鉱石、石で造られた家、鉱山から、毎日鳴り止むことの無い採掘の音。
すべてがその目に新鮮に映ったものだ。
そんな好奇心旺盛に街を走る、小さいウェディの目に、奇妙な一団の姿が飛び込む。
彼らは同じ服を身にまとい、同じ髪型をし、表情はうつろで、名前も意味の無い文字列の並び…
あたしはそんな彼らを見て、妙な不安感と恐怖を感じる。
怪訝そうに表情を曇らすウェディの娘に気がついたのだろうか。
傍にいたドワーフの老人が声をかけてくれた。
『 あれは " 業者 " だな 』
独り言のように、老人は言葉を続ける。
『 あいつら、ここの鉱山で発掘された、ゴミやガラクタをそれなりの値段で買い取って行くのさ 』
『 あんなの、二束三文にもなら無いんだがな 』
『 うちの城主もガラクタ好きだが、あいつらもそれに負けないガラクタ好きだな 』
『 もっとも、金を出してくれる分、あいつらの方がいい奴らだけどな。ははっ 』
…今思うと、彼ら 『 業者 』 は、魔物だったのだろう。
彼らが集めてたゴミ、ガラクタ。今目の前で、軋みをあげる機械人形をみると、
それらが何の用途で集められてたかは、想像をするに難くない。
そして、その機械人形が、いつまでもなくならない理由も。
メギストリスの幸せそうな恋人達の姿が、突然フラッシュバックする。
愛に生きる彼ら。戦いに生きる冒険者。
『 …あたしは誰の為に、戦っているの? 』
目の前で、軋みを上げる機械人形は、少しずつ動かなくなっていく。
まるで、誰に聞かれることなく、壊れゆくオルゴールのように。
まるで、誰の為に戦うか判らず、機械人形のように死ぬまで戦い続ける、冒険者のように。
~Fin~
※ 思うところあってリメイク