2012年デマトード
その地ははるか遠く。
人の足が踏み入れるのをまるで拒むかのごとく、乾いた砂漠の彼方に存在する。
~デマトード高地~
複数の人影が見える。先頭にいる軽装の少女が短く呟く。
「いた」
指差す方向を見る。
そこには一体の長い体躯をうねらせ、周囲を警戒する異形の生物が邪に羽ばたいている。
鬣は獅子。巨大な羽は蝙蝠。蛇の尾は雄々しく地を叩き付ける。
合成獣の王。 ~キマイラロード~ だ。
冒険者達は息を潜め身を地に伏せ、王の警戒が解けるのをじっと待つ。
やがて背を向ける合成獣。
「 いくぞっ! 」
冒険者が一斉に駈け出す。王の背後から襲い掛かり、その虚をつく。
先頭の盗賊の少女は素早く飛び込むと、手慣れた手つきで合成獣の懐にある光る物を掠め取る。
それを確認した仲間は一斉に呪文の詠唱を始める。
飛び交う火球。響き渡る咆哮。
巨大な体躯がそこに横たわっていた。
冒険者たちはその傍らでつぶやく。
「また駄目か…」
彼らの目的は、合成獣の持つ「みずのはごろも物語」
強力な防具の一つ、みずのはごろもの製造工程が記されたその書は当時、破格の値段で取引される、文字通りの「お宝」である。
一攫千金を狙った、トレジャーハンティング。
手練れの冒険者たちはこの危険な高地に赴き、宝物を奪う生活に身を委ねていたのであった。
「仕方ない、次の獲物を探そう」
上位の固有種である合成獣の王は、個体数はそう多くない。
冒険者たちは危険なこの地で個別に別れ、新たな獲物の探索を始める。
「ギャアッ!」
仲間と分散して数分後。
盗賊の少女は岩陰の向こうで、短い叫び声を聞きつける。
慌てて段差を飛び越えると、そこには血まみれになった仲間の僧侶の姿。
そして傍には異形の獣が牙を剥いていた。
ダークパンサーだ。
野生の索敵範囲は人のそれを遥かに凌駕し、駆ける速度は冒険者の速度の数倍。
意表を突かれた仲間の僧侶は、背中から巨大な牙による痛恨の一撃を受けたようだ。
この僻地で、蘇生の呪文を持つ彼を失うことは、PT全体の死を意味する。
~ 他の仲間は…駆け付けるまでには間に合わない! ~
盗賊の彼女は右手の短剣を握りしめ、仲間の僧侶が戦域を離脱するまで、黒い野獣の気を引きつける為に駈け出す。
獣たちは小さい獲物の姿を捉えると身を翻し、獰猛な牙で襲いかかるのであった。
~Fin~
※懐かしいあの日々