「わー、ぼっろいお家!」
家を見るなり、彼女はばっさり言った。
「ねー、ジュセ。こんなところでほんとに暮らせるのー?」
今日、新居に越してきた。エルトナ大陸、アズランの森の奥の一軒家。
文字通り、辺りに他に家は無い。木々と、大きな湖が一つ。
着いた頃には既に日が沈み、真っ暗になっていた。
唯一の明かりはお月様。照らし出された新居は、確かに彼女の言うとおり廃墟と言っても差し支えないものだった。
「暮らすの。せっかく格安で手に入れたんだから。さ、入ろう。」
私はそう返して、ふくれっ面をする彼女を家の中へ押し込んだ。
中もまぁ、期待通りの惨状だった。
絶句する彼女が持つランプの光を頼りに、ホコリや散らかっている破片を払いのけて、なんとかプクリポ2人が一息つける場所を作り出した。
「むー。私もとんでもないご主人様につかえたものねー。」
ごろんと座り込んだ彼女は続ける。
「こんなぼろ屋じゃまともに働けないわー。労働環境改善提案ー。ジュレットの前のお家にかえりたーい。」
文句を言う彼女の前に座り込み、私は言った。
「もう、文句言わないの。だいたい、住み良い環境を作るのがプライベート・コンシェルジュの仕事でしょ。やりがいのある職場ってやつだよ。」
言い返せないのか、彼女はそっぽを向いてしまった。私は自分のカバンの中をまさぐりながら、続けた。
「大丈夫だよ、そのうち慣れるって。今日は私も疲れたから、片付けとか荷物運びとか、明日やろう。明日。 とりあえず、ほい。」
取り出したクイックケーキの缶詰を彼女の前に置く。膨れっ面が少し萎んだ気がした。
「シュピ、今日はお疲れ様。私も手伝うからさ、頑張っていこうよ。」
横からシュピのいびきが聞こえる。おかげで眠れやしない。
あれだけ文句を言っておきながら、ケーキを平らげるとすぐに眠ってしまった。私より遥かに適応能力があるんじゃないだろうか。
ともかく、今後も色々と大変なことが起こるだろう。やりきれない時にこの日記を見て、かつて確かに存在した日常の些細な幸せを思い出して、生きる糧に出来たら。
そういった意味で、これから日記をつけることにする。
文字入りのページが、なるべく多くなりますように。