ウェナ諸島には、開拓されていない土地がまだ沢山存在します。
ヴェリナード王政は、古代の知識を発掘するため、ウェディの有力者達に調査・開拓にあたらせています。
そしてその見返りに、制約はあるものの、開拓した土地は開拓者のものとする事が出来ます。
大邸宅の主人は、有力者達の中でもトップクラスに君臨する存在であり、多くの傭兵や調査員を募り、各地に派遣していました。
ジュセは主人に、調査・開拓団の一員として雇われていました。
調査が円滑に行えるよう、事前に、その地に巣食う魔物達を排斥する役目を与えられていたのです。
ある日、ジュセは主人から遠征を命じられます。
場所はケラコーナ原生林。
ヴェリナード島の大森林の奥深く、ウェディ達の聖地である清廉の大滝のふもと。
神聖ゆえに、誰もが足を踏み入れるのを躊躇うような、そんな場所でした。
実際に反対意見もあったそうなのですが、主人は利権拡大のため、遠征を強行します。
遠征にはジュセ以外の傭兵、調査員の他に、シュピさんを含んだコンシェルジュ数名も同行する事になりました。
シュピさん達はジュセ達、傭兵の世話を任されていたためです。
戦闘には参加しないものの、それでも危険な場所に赴く事になります。
ジュセは主人に、シュピさんの同行をやめて貰うよう申し出ましたが、軽くあしらわれました。
コンシェルジュのリーダー的存在である、シュピさんだけに特別を認めるわけにはいかなかったのです。
ジュセは嫌な予感を拭えないまま、遠征の日を迎えました。
数日かけてケラコーナ原生林にたどり着いたジュセ達は、キャンプを設立し、任務を開始しました。
凶悪な敵が多く、決して良い環境ではない。いつ何が起こるか分からない場所です。
肉体的にも精神的にも、そこまで強く無かったジュセは、日に日に活気をなくしていきました。
しかしシュピさんは気丈にも、そんなジュセを必死で励ましました。
ジュセはそのお陰で、不安で押しつぶされそうになる毎日を乗り越える事が出来たのでした。
段々と恐怖心も薄らいでゆき、気がついた時には、引き上げの日が目前に迫っていました。
ジュセとシュピさんは喜びました。
帰ったら暇をもらって遊びに行こう。美味しいものでも食べに行こう。
小さい事から大きい事まで、沢山約束を取り付けました。
ジュセ達の心の中は、すっかり希望に満ちていました。
しかし、そんなジュセ達を嘲笑うかのように、あの忌まわしき事件が起こったのです。