サクヤの冒険日誌

私はしがない守護者。

攻撃力1100をこえ、HPも1000に肉薄し、
日夜、蠍と戦うゴリラのような生活を送っている。

……アストルティアで過ごし始めて
もう10年を超えた。

やりたい事はまだまだあるけれど
何故かときめかない。

毎日、皮のお手袋を縫い縫いする毎日だった。

世界が色褪せたとは言わない。
ただ、何かが欠けたような毎日だったんだ。

新たな125防具。
組み合わせることによって
まるで課金装備のような出来上がりになった。

この世界で。
このアストルティアというアナザーワールドで
私が一番時間を費やしたのはドレアだろう。

新たな自分を見つけ、
気分が高揚した回数は数えられない。

おそらくレベル上限突破クエストより
多いくらいコーデを作り上げているはずだ。


だからこそ。


本当はわかっている。
何が欠けているのか。


……エル子だ。


私は根っからの『エル子至上主義』

市場はエル子が多くを占め、
史上で最も愛を伝えた種族であり
私情でサポートにも雇っている。

至宝であり、至高であり、嗜好である。

道ゆくエル子をキャメラに抑え、
エル子でのドレアを作っては頬を綻ばせる。

それでも足りないエル子。

理由は簡単だ。


私は『エル子』じゃないからだ。


基本人間の姿で世界に顕現し、
仮装メイクでエル子になってはエル子ぶる。
チームのメンバーをも欺き生きる生活に
心苦しさを覚えて生きているのだ。

満ち足りないのも仕方があるまい。
私は本当は魚子なのである。

……エル子になりたい。
エル子になってただただ画面を見てたい！
エル子と人間とドレアをそれぞれ使い分けたい！

そんな願望も叶うことなどない。
だって、現実生まれ変わることなんて出来ないからだ
『……聞こえますか』

声が聞こえた。

『私の声が……聞こえますか……？』
「誰だ！？」

私は辺りを見回した。
2匹の猫が私を見つめているだけだ。


「君たち喋れるの？」
『猫ではありませんわ……。どうやら聞こえるようですわね……』
「何者だ！ 姿を表せ！ 契約の下、サクヤが命じる！ レリーズ！！！！」
『私は女神エルトナですわ』
「ほぅ。いつもお世話になっております」
『エル子になりたい。ですわね？ 貴女の願いは届きましたわ。その願い、叶えて差し上げますわ』
「まことに！？！？」
『その道は険しく、簡単なものではありませんわ。でも、貴女のエル子愛なら乗り越えられるはずですわ』「どんな山だって乗り越えてみせる。どんな壁だって壊してみせる。私がエル子になれるのならば！！」

私は拳を握り答えた。
見えてはいないエルトナが笑った気がした。

『ならば、始めましょう。貴女のアストルティア生活を1から。いいえ、0から！（ドンッ！）』



その瞬間、世界が眩い光で包まれた。




カーテンから溢れる光が瞼を撫でる。

……夢か。

随分と変な夢だった。

そうだ。エル子になんか慣れるはずがない……。

さて、今日も皮のお手袋を縫うとするか……。

……とその前に！

私は電子レンジへと牛乳を入れ
ホットミルクを作ろうとした。

え？

あれ？？


私は電子レンジにわずかに映った
自分の顔の違和感に気づいた。



え……？



「エル子になってるよおおおおおおお！！！」




続く（かもしれない）

P.S.

エル子と『おとうさん』という名のドランゴです。
私のエル子は美人系です。敬具。