ゲームの主人公というのは、
小説や映画の主人公とは違います。
小説や映画の主人公は第三者の目で見られるけれど、
ゲームの主人公は自分で直接操作をするわけだから、
感情移入ができることが大前提になります。
ストーリー以外が面白さの本質のゲーム、
そういったゲームならば、その限りではありません。
では、ドラクエの場合はどうなのか?
ドラクエはRPG(ロールプレイングゲーム)です。
ロールプレイングとは、想像上のある役柄を演じること、
堀井雄二さんの「人生はロールプレイング」という言葉や、
ドラクエの主人公を喋らせないという昔からのこだわりも、
主人公=自分、という考えがあるからでしょう。
もっとも、主人公を喋らせなければ感情移入ができる、
と思ったら、それは大間違いだと思うけれど……
さて、年末に発売予定のドラゴンクエストモンスターズ3、
主人公はピサロです。
ピサロはドラクエ4に登場するキャラクターであり、
リメイク版では仲間にもなります。
リメイク版でピサロが仲間になった時も、
何故主人公を始め旅仲間は簡単に受け入れられるのか?
私は非常に強い違和感を覚えたけれど、
ちなみに、リメイク版のシナリオアシスタントは、
藤澤仁さん、成田篤史さん、上村あもさん、
ドラクエ10でお馴染みのこのお三方であるけれど、
そのピサロが主人公となると、
ますます強い違和感を覚えずにはいられないのです。
スピンオフ作品で脇役を主人公にする、
これはゲームに限らずどの分野でもよくあることです。
そして、その主人公に選ばれるキャラクターというのは、
人気があるから、見た目が格好良いから、
そういった安易な理由に因るものが多いように思います。
ドラクエの場合、それに加えて、
人気キャラクターにして代表作を増やしたい、
そんなビジネスの戦略もあるのでしょう。
しかし、ゲームの主人公は自分で直接操作をします。
故に、いくら人気があっても、いくら人気にしたくても、
誰でもいいというものではなく、
感情移入ができる、これが大前提になります。
ドラクエ4のストーリーを全く知らない、
そんな人ならピサロが主人公でも、
何の違和感もなく感情移入ができるかもしれません。
けれど、もしドラクエ4のストーリーを知っている、
そんな人がピサロが主人公で直接操作をするとなったら、
某国の某大統領を主人公にし、
その若かりし頃のスパイ時代をゲームにして楽しむ、
大袈裟ではなく、こういうことだと思うのです。
現在制作中のドラクエシリーズの最新作ドラクエ12は、
「ダークな感じになる。大人向けになる」
堀井雄二さんはこう明言されているけれど、
それならば、まだ分かります。
しかし、ドラゴンクエストモンスターズ3は、
公開された開発画面を見る限り、
全年齢対象で、どちらかと言うと子供向けに見えます。
若い頃のピサロがどういう生き方をするのか、
私は全く知らないけれど、
大人になったらどうなるかは知っています。
若い頃は優しいところがあったから、
それ故に後にそうでなくなった、
それはもう仕方がないよね、同情ができるよね、
だから人間に近い若い頃に感情移入をして楽しもうね、
そもそもピサロは魔族だから悪くて当たり前、
ゲームの都合上だけれど、魔物に攻撃ができない呪いをかけ、
復讐の旅でありながら慈悲の心があるところも見せる、
まるで悪い人なのか良い人なのか分からないラッパーのような、
なんちゃって魔族だから罪悪感なく感情移入ができるよ、
ピサロを主人公に採用した理由を付けるとしたら、
こういうことなのでしょうか?
私はそれはあまりに乱暴で、いい加減だと思うし、
綺麗事やゲームの勝手な理屈で子供を騙しているようで、
大人として、ゲームファンとして、
気持ち悪さと罪悪感を覚えずにはいられません。
FF同様、ドラクエのユーザー層も平均年齢が高くなっており、
そういった中で、
子供のユーザーを獲得しようとするのは素晴らしいことであり、
私も支持するところです。
けれど、絵柄を可愛いものにして、
ゲームシステムを分かりやすいものにする、
それだけで子供のユーザーを獲得できるかと言ったら、
それは大きな勘違いであり、間違いだと思います。
子供や幼児に人気のアンパンマン、
一見すると勧善懲悪の絵本の世界だけれど、
実は作者のやなせたかしさんの色々な思いが込められ、
聞けば成る程と思わせることばかりです。
可愛らしい絵柄で、お話も分かりやすい、
だから子供や幼児に受けるだろう、
なんて安易な発想で作られたものではないのです。
ドラクエの制作陣も、ドラクエのファンも、
そのあたりのことには鈍感で無頓着、
そんな人があまりにも多いように思います。