男は息子の亡骸を抱いて泣いた、泣き続けた
どれくらい泣いていたろうか…ふと人の気配を感じて頭をあげると、いつ現れたのか隣に老紳士が座っていた
不思議な老人だった、全ての罪も悲しみもふわりと包み込むような笑顔をたたえて男と息子を見守っている
男は老人に話しだした
私は駄目な父親です…息子が重い病に苦しんでいるのに全く気が付かなかった…パン職人の仕事が楽しかったのです!
老人は深く頷き男の肩を優しくたたいた
きっと私を恨みながら死んだと思います…
つい本心ではない泣き言を言ってしまって男は恥ずかしい気持ちになったが、老人はわかっているよ、とでも言うような笑顔で返した
君が息子さんや町のみんなの為に一生懸命働いているのは息子さんもキチンとわかっていますよ
指で馬車の窓硝子をキュキュとこすり、外の景色を見つめる
すっかり雪景色です、今夜はクリスマス、何か願い事はありませんか?
願いはひとつ、息子を生き返らせてくれ!そう叫びそうな気持ちを抑えて男は呟いた
私は…私は、息子の魂が安らかであれば何も望みはしません…
老人は黙って懐から手紙を取り出し、男に差し出したそこには
ぼくはおとうさんのやくパンがだいすきです これからもおとうさんがまちのみんなにパンをやいてあげるのをまもってあげたいです
男は声をあげて泣いた、息子の名前を呼びながら泣いた
男を見つめながら老人は語りかける
これからも、皆を幸せに…パンを、お腹をすかせた全て人に…
ほっほっほっメリークリスマス
ただいまジャ〇おじさん、パトロールおわりました
お帰りアン〇ンマン、外は寒かったろう、お疲れ様
いえーあれ?日記ですか?ずいぶん古いようです
これはね、君たちが生まれる前のわたしの日記なんだよ
へえー!昔のジャ〇おじさんってどんな感じだったのだろう?
ははは、昔も今もパンを焼いているだけさ
ずっとみんなのためにパンを焼いて、みんなを笑顔にしていたのですね
ジャ〇おじさんはニコニコしながら
町の様子はどうだい?
いたって平和ですよ、みなさん笑顔で町を飾り付けていました、明日はクリスマスですからね
いつもありがとうアン〇ンマン、わたしが焼いたパンを君が届けてくれるからみんなが幸せでいるんだよ
いえいえ、ぼくはみなさんの笑顔を守れるのが幸せなんです…あれ?ジャ〇おじさん泣いているのですか?
あはは、あくびをしただけさ、明日も早いそろそろ寝よう
おやすみなさい、ジャ〇おじさん
おやすみアン〇ンマン
寝室に向かうジャ〇おじさんを見つめるアン〇ンマンの唇がいつもありがとうおとうさん、と動いたようだったが、それを見ていたものはいなかった
完