「で、言ってしまったのですね」
姫は両手を後ろでくんで、
ブリキの兵隊のような足取りで、
ゆっくりトコトコと歩きながら、そう言った。
「言っちゃった...」
私は、その後ろをとぼとぼと歩きながら返した。
姫は「どうするつもり?」と言いたげな表情で
顔を後ろに覗かせた。俯いた顔をあげて、
その質問を投げられる前に、私は続けた。
「姫はさ、本当にしたいことがあって、でもそれは自分には手の届かないような願いだったらどうするの?あ、努力と熱意で補うとか、そういうのはナシで」
『姫』というのは私が勝手につけた
彼女のニックネームだ。
姫は才能に恵まれていた。家柄にも。
そしてなにより、謙虚で努力家だった。
ただ家柄を鼻にかけることはなく、
その才能を他人に誇示することもなかった。
手の届かない願い。
そんなものが果たして彼女にあったのか、
その時の私はあまり深く考えずに尋ねた。
「そうですねぇ、私ならいまの自分にできる事をしますわ。夢叶わずともできることはある、と思いますもの」
まぁ、精神論な気がした。
でも姫らしい答えだな、と私は思った。
確かにそうだ。
選書をしたいと言ってはみたものの、
知識不足は否めない。
いくら背伸びをしたところで、
私が母のようになれる訳でもない。
書架の本をどれだけ読み漁ったところで、
司書の知識がすぐに身につくはずもない。
「それにしても」
姫は首をかしげながら、不思議そうに尋ねた。
「今まで言わずに頑張ってきたのに、どうして急に。らしくありませんわね」
司書の仕事に慣れてきて、
周りが見え出す時期だった。気の迷い。
そんな風に考えてしまえたら、
きっとこんなに悩みはしなかっただろう。
ただ
理由は、そうじゃない。
「...聞こえたの」