街の真ん中で、人々の叫び声が響く。
髪の長い女が包丁を持って暴れている。
女「あああああ!!殺してやる~!」
カズ「・・・・・」
カズは動かない。
人々が次々と刺されていく。
人々「キャアアアアアアアア!!!!」
女「あはははははっ!」
救急車のサイレンの音と、警察車両のサイレンの音が聞こえる。
すると女は最後の力を振り絞るように、人々の心臓を狙って次々と刺していった。
街にはたくさんの人が倒れていた。
警察官が警察車両から降り、女に拳銃を向ける。
警察官「手を挙げろ!!発砲するぞ!」
女「打てば?どうせあんたも死ぬんだからあああああ!!!」
そういって女は警察官を襲い、それと同時に拳銃で撃たれた。
女「ああっ・・!」
バタリ。
女が倒れると、街は急に静かになり、救急隊員が人々を搬送する。
-病院-
「・・・・?」
目を開けると、真っ白の無機質な天井が見えた。
ほんのりと消毒液の匂いもする。
・・・そうだ、ここは病院だ。
医者「気づきましたか?」
アヤミが意識を取り戻したことに気づいた医者が、アヤミに話しかける。
医者「あなたは爆破で胸と足を大きく負傷しています。いきなり起き上がったりしないようにしてくださいね」
「すけ・・・」
アヤミがその言葉を口にすると、医者は気まずそうに言った。
医者「その・・・すけくんと言うのでしょうか?男の子は・・・まだ意識が戻っていません。命に直接関わる負傷はないものの、失血があなたより酷く、今点滴をしています」
「・・そうですか。あの、カズは・・」
医者「ああ、そのカズさんとみられる男性は、搬送している途中に救急車の窓を割って救急車から脱出してしまったとか・・」
え、という声が漏れる。
医者「あの時も随分重傷だったみたいなので、信じられませんが。」
「・・じゃあ、どこへ」
医者「わかりません・・・ですが、救急隊員によると街へ走って行ったと・・聞いております」
「街・・・!私も、行かなければいけないんです」
医者「あなたの状態じゃ無理です・・ですがなぜ街へ?」
「あの・・カズが言ったんです。街で大量殺戮が起きると。爆破した犯人はおそらくその人物だから、今日起きると思って行ったんでしょう」
医者「予知ですか?そんなことが・・」
???「救急患者36名!!街で包丁に刺された被害者です!!」
医者「えっ!36!?」
「ほら・・やっぱり。あああ・・・!」
医者「・・っ、では私は救急患者の治療へ向かいます。安静にしていて下さい!困ったことがあったらナースコールを!では!」
医師は焦りながら走って病室を出て行く。
医師が出ていった病室には静寂が訪れた。
「うう・・・っ!」
アヤミは嗚咽を漏らしながら涙を流す。
取り返しのつかない事態を後悔しながら、
街へ向かうことが出来ない自分の無力さを感じながら、アヤミは泣き続けた。
-すけの病室-
すけ「・・・・・・」
ピッピッピッピッ、と心拍計の音が白い箱のような病室に響く。
すけは夢を見ていた。
すけ「みんなぁぁあああ!!!!おっとう、おっかあ、早く逃げて!!!」
父「いいからすけ!逃げろ!俺はいいから、早く逃げるんだ!!!ここから動けない!」
母「うう・・・すけ・・!私もいいから、早く逃げなさい!」
燃え盛る炎の中に、2人が取り残されている。
瓦礫で2人は動けない。炎が迫ってくる。
すけは涙を流しながら叫ぶ。
すけ「いやだああああぁぁ!おっとうも、おっかあも、集落のみんなも全員死ぬなんて、絶対いやだあああああああぁぁぁ!」
母「ありがとうね・・・でも、すけ、私達はおまえがが大好きだよ・・!だから、どうか、おまえだけでも助かって頂戴・・・」
父「ほら・・・すけ、逃げろ・・・・」
父は自分の形見をと、すけにお守りを渡した。
すけ「おっとう、こんなお守り、いらない!!神様なんて、いないんだ!!いるなら、今すぐこの火を消してみろ!!!」
すけはお守りを地面に叩きつける。
父「神様はいないかもしれない・・でもこのお守りが、おっとうとおっかあだと思って、大切にしてくれ・・。おれ達はいつでもすけを見守ってるから・・・」
すけ「・・・わかった。おっかあ、おっとう、今までありがとう!!!うわああああああああん!!!!」
父「そうだすけ!!すけは強いぞ!!!!生きろおおおおお!!」
母「見守ってるからね!!!すけ!!」
すけは炎に巻き込まれていく家族と家を尻目に、集落をあとにした。