私は今から燃え尽きる宇宙の塵。
身体に当たる強くて冷たい風が、ビュウビュウと吹く。
誰かの悲鳴のようだ。
目の前の崖を覗くと、激しく波打つ海が見えた。
今は夜で、周りには誰もいない。
カズ達が眠っている間にアジトを抜け出し、バスを乗り継いで海のあるここまで来たのだ。
恐ろしく音を立て波打つ海を見ていると、深い海に引きずり込まれそうになる。
まあ、このまま引きずり込まれる予定だ。
服は真っ白なワンピース。あえて夏用を選んできた。
・・・早く、宇宙から消えられるように。
表面上は真っ白な純白でも、中身は真っ黒な漆黒という、なんとも皮肉な意味を込めて着てきたのだ。
「さあ・・・そろそろ、この世界ともお別れか」
私は広い世界をこの目で名残惜しむように見渡した。
連々と連なる山。そのずっと遠くに街明かりが見える。綺麗な夜景だ。
夜景を見て、今までの人生を振り返る。
思えば、辛いことしかなかったなぁ。
人もたくさん傷つけた。
誰かを救う事なんて・・・私には縁がなかったんだな。
深呼吸をして、最期に世界をできるだけ見渡せるように履いてきた厚底のハイヒールを脱ぐ。
少しでも、少しでも。
この目に焼き付ける。
すると、雨が突然降り出した。
最初はぽつぽつと降っていた雨は、あっという間に強くなった。
・・まるで、私がカズと出会った日みたいだ。
あの日、私の人生は変わったと思っていた。
前会社に入っていた時とは違って、凄く楽しい日々だった。
私が担当したのは私のお母さんの件だけだけど、それが私に大罪人という現実を突きつける出来事だった。
やっぱり、私はそういう運命なんだ。
不幸な目にしか合わない運命だったんだ・・・。
ふと、頬に生温かい感触を覚える。
手で触る。すると冷たい雨の感触と裏腹に、温かい涙が触れた。
「涙か・・・・ふっ」
泣いている自分を自嘲する。
全てが面白くなってきた。
「ふふふ・・・。」
ああ。なんだか、すけくんがよく笑う意味がわかった気がする。
すけくんも、ずっと昔に家族を殺されて、絶望して、何かに対する諦めがあって、諦めながらも殺した犯人を見つけ出し、復讐し続ける。
自分の事がどうでもよくなって、笑えてくる程疲れているんだ。全てに。
私は世界への諦めを感じながら、海へ一歩を踏み出した。
一瞬だけ、世界が輝いて見えた気がした。
『さよなら、世界。』