一歩踏み出し、海へ飛び込む。
ざぶんと音がし、私の身体は海へ吸い込まれてゆく。凍るように冷たい海水。真っ暗な海の中。
全てが恐ろしく見えるが、肺の中にある空気全てを吐き出して、海の奥深くへ沈んでゆく。
波はとても荒いので、あっという間に呑み込まれてしまった。
ああ。これで、やっと終われる。
いつの間にか背負っていた大罪。
いろんな人を傷つけてしまった過去。
私が消える事で『ごめんなさい』を伝えられる。
お母さんは、さぞ喜ぶ事だろう。
本当に、ごめんなさい。今まで生きてしまって、ごめんなさい。傷つけてごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい。
私は海へ沈みながら、ゆっくりと目を閉じた。
カズ「起きろ!すけくん!!アヤミがいない!!!」アジトではカズがすけを一生懸命起こしていた。
すけ「ふわっ!?」
カズの声で起きたすけは飛び起きる。
カズ「急いで捜すぞ!!!パジャマでいいから来て!!!」
すけ「う、うん!」
カズ「どこだ・・・アヤミ、どこへ行った・・・!」外へ飛び出しながら、カズは言う。
すけ「外に出たのなら・・もしかしたら死のうとしているのかも・・・」
カズ「・・・くそっ!なんで気づけなかったんだ!」2人は強い雨の中を、がむしゃらに走った。
___息が苦しい。
身体が酸素を欲している。
そろそろか。
手足は凍えて感覚がない。
脳も酸素が尽きたのかあまり働かない。
何も考えられない。
すごく苦しい。
カズ「・・はあ、はあ・・・っ」
すけ「今、何キロくらい・・・走ったかな・・・」
2人は路上に座りこんでいた。
2人の体を容赦なく雨が打ちつける。
体温が随分下がってきていた。
カズ「アヤミ・・・」
カズは弱々しく言った。
もうアヤミは二度と帰って来ないのかもしれない。
永遠に。
カズ「・・・・アヤミが帰ってこないなんて・・」
すけ「カズ。まだアヤミちゃんが帰ってこないなんて決まった訳じゃない」
すけはカズに真剣な目つきで言う。
カズ「違う。万が一だ」
すけ「カズ。まだそんな事考えちゃ___」
カズ「あああああああああああああ!!!!!」
カズは壊れたように泣き叫ぶ。
すけは、驚いた顔でカズを見つめた。
カズ「また救えなかった人数が増えるんだ!!!また増えるんだ!!これで何人目だよ!?帰ってこないなんて嫌だ!絶対に嫌だ!!うわあああああああ!!!」
すけは初めて見たカズの表情に戸惑う。
すけ「カズ・・君がそう言っても、僕は行くよ。アヤミちゃんを助ける為に」
すけはすっかり冷えた足を震わせながら立ち上がる。
カズ「すけくん・・・君は」
すけ「ふふ。このくらいじゃ僕は諦めないから」
再び走り出したすけを見て、カズは言葉をこぼす。
カズ「・・君は本当に強いね・・・・。」
「・・ごふっ」
酸素が欲しい。酸素が足りない。本当に苦しい。
視界がぼやけてきた。水中ではぼやけて見えるのもあるが、酸素が足りていないのも関係しているのだろう。
酸素を吸おうとするが、酸素は無いので海水を吸ってしまう。
鼻と喉に痛みが走る。
「げほっ!」
水中の中で激しく咳をする。また酸素が失われてゆく。
これでいい・・・。これで。
私は耐え難い苦しみの中で、気を失った。
走り出してから二時間。2人はついに海に到着した。
上から海が眺められる崖・・星空岬に行くと、すけはカズに叫んだ。
すけ「ここだ!アヤミちゃんはここにいる!!」
カズはそれを聞いた途端に海に飛び込む。
カズ「ゴポゴポゴポ・・・」
吐き出す空気の量を細かく調節しながら、カズはアヤミを捜した。
波がとても荒いので、流されないよう気をつけて潜る。
すると、ぼんやりと白いものが見えてきた。
カズ(なんだ・・?あれ・・・)
そこまで潜ると、カズは目を見開いた。
カズ「アヤミ・・・!!・・ぶくっ」
そこには真っ白な夏用のワンピースを着たアヤミがいた。
アヤミは目を閉じている。
落ちてゆくように、静かに、静かに沈んでいた。
急いで腕を引っ張って、水上へ連れて行く。
もしかしたら・・・もう、アヤミは・・・・・。
ざぶんっ。
カズはアヤミと共に顔を出した。酸素を一生懸命吸う。
すけは「アヤミちゃんっ!!!」と叫んだ。
そしてアヤミの腕を必死に体を乗り出して引っ張る。
カズ「すけくん!落ちるなよ!」
すけ「大丈夫だよ!僕は体幹に自信があるから!!」
アヤミは息をしていない。カズは不安そうにアヤミを見つめた。
顔が真っ白だ。体もこんなに冷たくなって・・・
すけ「ううううう!!おらァ!!!!」
すけは渾身の力でアヤミを引き上げた。