「午前6時20分。ご臨終です」
とある病院で、医師はアヤミが亡くなった事を2人に伝えた。
すけがアヤミを死なせないように、一生懸命治療をし続けて一晩。
夜が明けてから、病院に運び込まれたアヤミだったが、惜しくも命は助からなかった。
カズ「あ・・・・・」
すけ「アヤミちゃん・・・」
カズは呆然とアヤミを見つめている。
ただ静かに、涙を流していた。
すけ「はっ!」
朝5時に夢から覚め、飛び起きたすけは、アヤミが死んだのが夢だった事を確認してから溜め息をついた。嫌な夢だ。
辺りを見渡すと、割れた窓から空が見えた。昨日の激しい雨とは打って変わって、さわやかに晴れている。
アヤミとカズを見ると、2人ともぐっすりと眠っていた。
すけ「アヤミちゃん・・・ふああ」
すけはあくびをする。昨日の懸命な心臓マッサージと人工呼吸でほとんど寝ていないからだ。幽霊とはいえ目の下にクマが出来ていた。
アヤミの息を確認する。一応昨日は息を取り戻してくれたが、また止まっているかもしれない。
無事に、アヤミは息をしていた。
すけ「はぁ・・・よかったぁ・・・・」
すけはよいしょと立ち上がり、外へ出る。靴がまだしっとりと濡れていた。
てくてくと海岸沿いを歩くと、お年寄りが手押し車を引いて散歩をしていた。
すけ「おはようございます!」
お年寄り「あらぁ、かわいい男の子ねぇ。引っ越してきたの?朝早いわね」
すけ「あ・・・いえ、色々ありまして」
お年寄り「そうなのね。ここは潮風が気持ちいいわよ。じゃあまたね、坊ちゃん」
お年寄りはにこりと笑って、再び歩いて行った。
優しい雰囲気の町だなあ。あのおばあさんはここら辺に住んでいるのだろうか。
すけは心がポカポカしている自分に驚いた。
あの日から持ち続けた果てしない恨み。その怨念はすけの心を蝕み、だんだんと怒り以外感情を持たなくなってしまっていた。
純粋な、人間の温かさに飢えていた。
アヤミやカズが嫌と言うわけではない。
ただ、温かくて自分に目一杯愛情を注いでくれる親のような存在を欲していたのだ。
ずっと、ずっと。
すけはそんな自分を誤魔化すようにうふふ、と笑った。
ここは・・・・?
アヤミは目を覚ますと、全く知らない場所にいた。
周りを見回す。隣でカズが寝ていた。何故か眉が八の字に下がっている。
「カズ・・・?」
そう呼びかけるとカズはもぞもぞと動いたあと、
カズ「うおおおおお~・・・」
と唸って体を起こし、
カズ「うーん・・・すけおはよ・・・ふあぁ」
と言って大きなあくびをした。
「カズ・・・私だよ・・・アヤミ、だよ・・・・」
アヤミが勘違いしている事を教えると、カズは目を見開いて
カズ「アヤミ!?!!!??」
と叫んだ。
「・・・?」
カズは鼻息を荒くしてこちらを見つめている。
カズ「アヤミ・・だよな・・・・?」
「当たり前でしょ。私以外誰がいるの」
カズ「あ、あ・・・アヤミ・・・」
「どうしたの」
カズ「生きてたんだぁ!!!!!!うわああああああああああん!!!!心配したんだからな!!すけくんと一生懸命ここまで走ってきて、海に沈んでるアヤミを助けたんだからな!!!心配させんじゃねええええええ!!!」
カズは突如として泣き出す。
「えっ?」
カズ「ぐすん・・・何・・?」
アヤミは戸惑った声で言った。
「私・・・何かしたっけ・・・・?」
カズ「はぁ!?」
驚いているカズの後ろで、すけが帰ってきた。
すけ「ただいまー・・・あっ、アヤミちゃん!!!」すけは全速力でアヤミの所まで走り、抱きつく。
「すけくん・・・?」
カズ「本当に覚えていないのか?アヤミは自殺しようとしたんだぞ」
その言葉を聞いた瞬間、アヤミの頭の中に記憶が流れ込んできた。
「あっ・・・・・」
アヤミは頭を押さえてその場にへたれ込む。
「あっ、ああっ、あ・・・・私・・・。」
カズ「そうだ。あんな恐ろしいことをしようとしたんだぞ」
カズが期待する返答とは違い、アヤミは冷や汗をかき始めた。
「あっ・・私、大罪人なんだ・・・・生きてちゃ、駄目だったんだ・・・・・」
カズは眉をぴくつかせる。
カズ「アヤミ!!」
「私の事を助けたのは誰?私は宇宙から消える筈だったのに・・・どうしてこんな人間を助けるの?ねえなんで?ねえ、助けたのは誰?」
アヤミはカズに問い詰める。
カズ「アヤミ、落ち着け」
「落ち着いてなんかいられないよ。誰なの、そいつのこと怒らなきゃ。まさかカズじゃないよね?」
カズは黙る。
「ねえ、カズなんでしょ。カズが助けたんでしょ。答えてよ。何で大罪人を助けるの?許さないから。」
アヤミはカズを強く睨んでいた。