未の刻―。
「ここなら貴方が来ると思っていましたよ。魔物斬りの殺戮者殿」
怪盗シーフが霞の中に向けて放つその名。
過去グランゼドーラで起こった厄災を生き延びた人や魔物、魔族なら少なくとも知るであろう、伝説の武士。
魔界を恐怖へ陥れ『魔物斬りの殺戮者』として名を広めた―。
彼の名は、焔刀気。
そんな彼が、怪盗シーフと幻影帝との間に居た幻影騎士を瞬く間に切裂いたのだった。
「き、貴様が…!?な、何故ここにいる!」
彼から放つ殺意に恐れ戦く幻影帝。
彼も実際にその戦場に居た一人故、あの頃の強さを知っていた。
「…お前が知る必要はない。殺してやるからさっさとかかってこい」
金色に光輝くその鋭い眼付は、幻影帝の身を震えさせた。
幻影帝は一歩また一歩と後退る。
そんな姿を刀気は見逃さんと抜刀術の構えを行った。
「くっ…覚えていろ。いつか貴様らを我が神が倒してくれようぞ!」
リレミトによって逃亡を図る幻影帝。
そんな行為を見逃さんと神速の抜刀を放つ刀気の一閃は、彼の仮面にヒビを入れ込ませた。
同時に、黒き円形に吸い込まれる形で姿を晦ませる幻影帝。
「逃亡を許していいんですか?魔物斬りの殺戮者殿」
「…いい加減その名を呼ぶな義賊。」
「これはこれは失礼いたしました。刀気殿」
「…はぁ。」
二人の掛け合いの中に入るシルティアは、言葉足らずの中口を切る。
「あ、あの…、助けていただいてありがとうございます。」
「ん、お主は…」
「シルティア・メルキュール…です」
「メルキュール家の…娘か」
ボロボロになった姿でも彼女は気品を忘れず丁寧な挨拶をする。
彼は会釈をしつつ、踵を返す。
彼は怪盗シーフに言伝を告げる様に立ち去る。
「彼女の傷を治療してやれ、月夜の奇術師」
「えぇ、言われなくても…」
彼女らは互いに道を枝分かれする様にその場を後にしたのだった。
◇◇◇◇◇◇
それから数日。
幻影教団の一人、『幻影闘士』は、竜牙の力の一つである『気脈感知』を使用し、より濃い魔力の残量が集る場を感知し襲来しに向かう。
そして、竜牙の知り合い達との激闘が繰り広げられるのは、また別の機会に語りづがれるであろう―。