戦場となったアマラークの路地に呪文の詠唱が響く。早口で火精に語り掛けるツキモリの頭上に
火焔渦巻き、瞬く間に巨大な火球が精製されてゆく。
『 “メラゾーマ“…!
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
ツキモリが、手に持つ短剣を
呪文の名と共に前に突き出すと、
解き放たれた上空の大火球は、
勢いづいて燃え盛りながら前方の魔物…
フーラズーラを呑み込んでゆくのだった。
『 おおー、すごい!!
『 ふん、要は
『まだ何ものでもない純粋な創生の魔力』で
呪文をコーティングしてやりゃ良いのか。
理屈さえ割れちまえばどうって事ねェな…
目を丸くするクーを尻目に、
魔族はつまらなさそうに鼻を鳴らす。
どうやら奴は、
おれが剣に創生のチカラを纏わせたのを
たった一度見ただけで、
フーラズーラに干渉する術を
自分なりの理論に落とし込んで理解したらしい。
しかし奴は…
『さすがだな』と笑いかける おれを座った目で
一瞥すると、いつものため息を吐いた。
『 ちなみに…創生の魔力ってヤツは
そこら中に満ち満ちてる。
それらを上手く取り込めるんなら…
よほどの大技でも使わねェ限りは、
どっかのバカみたいに
『“自分の存在そのもの“を
すり減らしながら戦う!』
…なんて、阿呆丸出しの戦法をする
必要も無ェはずだ。
『 うっ…言われてみれば…
そこまで考えて無かった…!
再びの嘆息が 我が身にのしかかる。
確かに…天星郷の時のように
創生のチカラを自分で放出するのでは無く、
さっきみたいに『外から取り込む』のなら、
過度に『創失』とやらの心配はしなくて良さそうだ。盲点だった。
( …が、この上無い朗報でもあるな。うむ。
…気を取り直して、先に進むことにする。
運良くリズク王に遭遇し、
改めて今の状況を理解した今。
おれ達が成すべき事は、一つ。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
“ リズク王…!?
はっ、見慣れない姿とは思いますが
おれ達は… “
“ アストルティアの…
『燈火の調査隊』の方々とお見受けします。
ジーガンフ殿と同じ種族の方がおられたので
すぐ分かりましたよ。
救援用の物資が届く、と
連絡を受けておりました。“
“ おお、ならば話は早…
うん?ジーガンフ…!?
い、いえ、今はそれよりも… “
…リズク王との
この偶然の邂逅で得られた情報から、おれ達は
『今この街が置かれている状況』を
正確に把握することができた。
フーラズーラ達の襲撃が
予想よりも随分早かったこと。
襲撃と時を同じくして…
当初から作戦は大きく狂ったが、一か八か。
奴らを生み出している『根源』を討つ為の
討伐隊を、入れ違いに送り出したこと。
そして、その根源とやらを倒せば
今、街を襲っている奴らは
全て消え失せるらしいこと。
…状況は芳しくないはずだが…それでも、
討伐隊の中に、燈火の調査隊の隊長でもある英雄、
通称『エックスさん』の名があった事で、
おれ達は大分、安心することができた。
ならば討伐隊の成功を信じて、と
改めて街の防衛の協力を申し出る事にする。
状況が状況だ。
王は申し出を喜んでくれた。
だがー…
礼の言葉に続いて、
“ ですが…皆さん、
どうか無理だけはなさらぬよう。“
と、気遣いの言葉が紡がれる。
そんな王の顔に、なんだか一抹の
“かげり“が見えた気がして…
“ 了解しました。
なあに、おれ達は冒険者です。
いざという時の
逃げ足には自信がありますゆえ! “
…安心させようと、
少しおどけて胸を叩いて見せると
王は自分の表情に気付いたのか、
『それは頼もしい』と笑った。
続けて彼は
おれ達の連れてきた荷馬を指差す。
“ 救援物資を幾らか お分け頂いても?
私は戦いは苦手なのですが、
馬術ならば多少の心得があります。
それがあればきっと、
多くの民の助けになれましょう。“
元々そのための物資だ。
快諾すると、王は律儀に礼を言って
荷物を手早く自分の白馬に積み替えてゆく。
おれ達も手伝い荷を積み終えると、
王はこちらの武運を祈りつつ、
見事な手綱捌きで街の中央部へと
疾走していったのだった。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 おし、おれ達もいくか!
エックスさんが根源を断つまで…
住民を守り切る!
『 よーっし、気張っていこう!
『 うん…!
『 ふん…死なねェ程度にな。
仲間達と頷き合って、
おれ達は、人々を襲うフーラズーラの影を
探して改めて駆け出すのだった。
~つづく~