鳴り止まぬ戦いの狂騒。
フーラズーラ達の襲撃によって
戦場となったアマラークの市街を、
一頭の白馬が、解き放たれた矢のように駆けてゆく。
白金の美しい長髪をなびかせながら
白馬を操る青年の表情は、悲壮に満ちていた。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
青年の名はリズク。
このアマラークの地を統べる王である。
白い愛馬を巧みに乗りこなし、迫り来る黒い影達を
まるで一陣のつむじ風のように翻弄、撹乱しながら、影どもと戦う兵士や民衆達に檄を飛ばし、
的確な指示を与えてゆく。
普段の穏やかで、物腰柔らかな態度の彼からは
およそ想像できないような
凛々しく、そして雄々しいその勇姿に
アマラークの民達は高揚し、
次第に戦意を高めていった。
『 アマラークに勝利をッ!
眼前のフーラズーラを蹴散らした兵士が、
高らかに雄叫びを上げる。その叫びに揚々と呼応する民衆達の士気を確かめると、
リズクは他の激戦地へと、休む間も無く
駆けてゆくのだった。
…走るリズクを突き動かしているのは、
王としての使命感、人としての愛国心…
あるいは、かつて肉親を目の前で奪った
フーラズーラへの憎しみもあるだろう。
しかし、それらよりも強い感情があった。
( イルシーム…!
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
それは…
己の生まれた時より共にあり、
兄とも慕ってきた男を…
戻って来られぬであろうと解ってはいながらも
死地へと送り出してしまった後悔と…自責の念。
( 皆の前では『誰も死ぬな』と
謳っておきながら…私は…!
兄…イルシームとは、
神話の時代に創世の神が生み出したと言われる
『黒槍クバーラト』を操る
アマラーク最強の戦士の名である。
作戦が破壌した今となっては、
一縷の望みに賭けて少数精鋭を
敵の本隊へと送り込んだその判断は、
将としても、王としても決して間違ってはいない。
『兄』もきっと、そう言うことだろう。
だが…
本来なら一個大隊を投入するはずだった作戦に、
実際送り出せたのは僅か数名…
イルシームと『隊長』…異郷から来たという不思議な旅人…達の実力を疑っているわけではない。
任務の成功を信じてはいるが…それでも。
遂行にはおそらく、決死の覚悟が必要になるだろう。
そして…リズクは兄の性格をよく理解していた。
きっと、いざとなれば…
イルシームは己を省みず、
客人達の盾となって道を切り開く
『死に役』となる事を選ぶ。
…リズクは唇を噛み締め、
まなこを強くつむった。
だが、次の瞬間には首を振って目を見開き、
愛馬の腹を蹴っていた。
( 今は…今は!
王としての勤めを果たせ…!
愛する民を…国を守り抜け…!
そうせねば、兄へ…
死地へと送り込んだ者達へ顔向けすらできない。
歯を食い縛り、リズクは戦場を駆ける。
( 頼む…!
私の前からもう誰も消えるな…!
誰も…死ぬな……!!
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
市街西区、別の戦局。
兵士達や民衆に混じって、
一際目立つ大男が 大立ち回りを繰り広げていた。
肌は赤く、額と両肩に角が生えていて、
腰下に長い尻尾を蓄えた筋骨隆々の大男。
ゼニアスには存在しない種族、オーガである。
振るう拳や脚に『気』を纏い、
群がる影達を、一撃必殺、十撃十殺…
豪快に、しかし的確に薙ぎ倒してゆく。
だが…
影どもは、無尽蔵と言わんばかりに
倒しても倒しても湧いてくる。
兵や民衆も、次第に疲弊の色が濃くなってきた。
『 むう…!
皆、オレから離れるな!
円陣を組んで、弱った奴を守れ!
…戦況は劣勢に転じつつある。
このままではいずれ遠からず
力尽きる者も出始めるだろう。
大男は苛立ち、握った己の拳を見つめた。
( 守り切れるのか?オレに…
アマラークは広い。
仮に目に映る者達を守り抜いたとしても、
戦場全体をカバーし続けるのは至難の業である。
それでも…
( 弱気になってどうする!
決めたはずた、これからのオレの…
『武』の使い道をッ!
誰かの為に戦うのだと!
男は握りしめた拳を突き出すと、
これまで以上に縦横無尽に駆け回りはじめた。
そんな折…兵の一人が叫ぶ。
『 報告!市街東側の戦況が
持ち直しつつあるようです!
どうやら、見慣れない種族の人達が
戦っているようで!
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 何ッ…始まりの地から
救援が来たのか…!?
思わぬ朗報に、大男と
その陣営は沸いた。
『 よし、ならば向こうは安心だ!!
オレ達も負けてられんぞ!
『 おおっ!!
~つづく~