アマラーク市街、東区。
『 うわぁぁあんッ!!
フーラズーラどもで溢れかえらんとする戦場に
子供の悲鳴が響く。
『 だっっしァァるァァッ!!
全力疾走。あらんばかりの気勢を上げて
剣に『気』と稲妻の力を纏わせ、
今にも少年に喰らいかからんとする
フーラズーラに叩きつける!
『 “ ギガスラッシュ“ッ!!
雷轟一閃。
邪悪な影は紫煙となって霧散していった。
間一髪、というやつだ。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 無事か、少年!
フーラズーラへの恐怖からだろう、
尻餅をついていた少年を助け起こし、
怪我の有無を確認する。どうやら大事は無さそうだ。だがー…
『 おじちゃん、ツノが…!
( おじちゃん…
…は、まぁ良いとして。
立ち上がった少年は
どうやら、おれの姿を見て驚いているようだ。
しまった…ゼニアスにオーガは居ないんだった。
新手の魔物と思われたかもしれない。
最近はオーガを見慣れていない人間と
関わる事が多い気がする。
まったくクーの時といい、■■■の時といい…
改めて考えると、いちいち厄介な問題だ。
( クーと…
ん?誰の事…だっけ…?
まあいいか、今はこの子を落ち着かせないと。
『 あー、怖がらなくて大丈夫だ。
こんなイカついナリだが、
おれは君たちの敵じゃあ無…
『 知ってるよ、オーガ族でしょ!
『 うん???
しかし、こちらの言葉を遮ぎる少年の一言は、
意外なものだった。
『 だってジーガンフ師範と同じだもん!
おじちゃん、師範の友達なの?
オーガって、やっぱカッケェェ!!
『 お、おお?
少年はオーガを知っていたのだ。
そして再び耳にした、ジーガンフという名…
という事は、やはり…“あいつ“が…?
『 キミ、だいじょぶだった!?
と、我が思案は、後続から颯爽と駆けてくる
吟遊詩人のよく通る澄んだ声に妨げられた。
『 あたしらが来たからには
もぉ安心…
って、ほげぇえぇえッ!!?
エスタータの決め台詞は、彼女の右隣に
突然湧いて出たフーラズーラによって、すぐさま
良く通る汚い絶叫へと変わった。
その湧いて出た影を、すかさず
後方から飛んできた火球が薙ぎ倒す。
『 締まらねェな、おい…
『 大丈夫!?
なんか…すごい声したけど…!?
どうやらツキモリとクーも追いついて来たようだ。
鼻で笑う魔族と、その隣りで
本気で心配してくるクーに、
吟遊詩人は赤面して空を仰ぐのだった。
『 ひー!何でもないから!ほっといて!?
…そんなこんなで
大人達とはぐれていたらしき少年を連れて
急ぎ、人の集まっていそうな所を目指す。
『 『ジーガンフ』…って名、
リズク王とやらも口にしてた。
お前、何か知ってる風だったよな?
…走りながら道すがら、耳聡いツキモリが
疑問をぶつけてくる。
『 ああ。同じオーガの知り合い。
ってか同郷。『幼馴染』ってやつだ。
同名とかじゃなきゃな。
『 ふぅん…
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 ジーガンフは村の若手の中でも
1、2を争う程の豪傑だった。
昔の時点で そんな実力者だったし…
調査隊を組織した大国からオファーが来てても
おかしくはないだろ。
…情報をまとめると、
多分ドゥラ院長の言ってた
『現地に派遣中の調査隊員』というのが
ジーガンフのことで…
『気』を扱う武術を、
このアマラークに広めたのも多分
あいつなのだろう。
おれ達が今、フーラズーラに対抗できているのも、
間接的にではあるが、ジーガンフの
おかげということになる。
『 は、同じ村のエリートと…
落ちこぼれってヤツか。
『 うはは、言ってくれるじゃないの!
でもまあ…
考えてみりゃ数奇な縁、だな。
まったく、縁というものは
どこで繋がっているか分からない。
と…追憶に浸る暇も無く。
走るおれ達の前に、
本日幾度目になるかしれない
黒い影どもが湧いて出て、立ちはだかってきた。
おれ達はすかさず、仲間4人で少年を囲んで守る、
十字型の陣形を組んで応戦することに決める。
『 じゃあ魅せてやろうじゃないか。
落ちこぼれの意地ってやつを。
『 ふん、そりゃ楽しみだ。
陣形の先頭で相棒の魔族と軽口を叩き合い
二人、不敵に笑う。
エスタータとクーには主に少年の護衛を頼み、
あまり無理はするなと伝えるが、
しかしー…
吟遊詩人は何故か、首を横に振っていた。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 ううん、倒せるよフーラズーラ。
あたしにも…たぶん。
~つづく~