黄昏時のアマラーク東区、とある広場。
広場に集う街の人々を
一人残らず喰らいつくさんと群がる
おびただしい数の影…フーラズーラどもに対して、
おれ達は円陣を組んで迎え撃つ構えに出た。
襲いかかってくる影どもを、
『気』を宿した我が盾を叩き付けて怯ませ、
その隙に閃光をまとわせた斬撃で薙ぎ払う。
そうして前線を一時的に押し返した隙に
ツキモリが氷結呪文を唸らせ、更に多くの影達を
散らせてゆく。
エスタータの爪弾く竪琴の音色は
影どもの動きを鈍らせると同時に、
少しずつではあるが人々に活力を取り戻させ…
クーの剣も、まだ気…創生のチカラ…に対して
十分な理解と要領を得ていないながらも、
それでも数発に一撃は、蒼い剣閃となって
見事に影達を切り裂いた。
そして驚くべきことに。
おれ達と共にいる街の人々…それも男衆だけでなく、女性や子供、さらには老人に至るまで。
それぞれの拳や足に気をまとわせ、
おれにとっては どこか懐かしさを感じる武術を、
ぎこちないながらも果敢に操って
影達に対抗していったのである。
善戦。
それでも奴らの勢いを殺し切れなくなった時は、
“防塞領域“を展開して、体勢を立て直すための
時間を稼いだ。
思っていた以上に心身の消耗の激しい技だったが、
この状況では そうも言っていられない。
乱発にこそ身体が耐えられそうに無いが、
使った後にある程度のインターバルを置けば、
日に数回程度ならば、どうにか展開できそうだ。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
まさに総力戦だった。
影どもの攻勢に苦しめられ、傷付きながらも…
実際おれ達は、よく戦ったと思う。
果てしなく続いた激戦の末、
気がつけば、あれだけ居たフーラズーラ達の
そのほとんどが、綺麗に消滅していたのだった。
だが…
広場におれ達の勝利の喝采が響く事は無かった。
何故なら…我が懸念が的中してしまったからだ。
『 ちっ…『ワンコソバ』かよ…!?
『 お腹…いっぱいなんですけど…!
肩で息をしながら、相棒の魔族が、
最近覚えたエルトナ料理の名を
舌打ちと共に吐き捨てる。
吟遊詩人が おどけた調子で応えたが、
相当無理をしているのだろう。
その声は枯れ気味である。
…周りを見渡せば、禍々しい紫煙と共に
見る見る内に影どもが湧き出してきて、
三度、広場を埋め尽くしてゆくのがわかる。
たちまち、広場に絶望の表情が広がってきた。
『 もう…腕が上がらねぇよお……!
『 うおーん!もう駄目だー!
今まで必死に押し殺していたのであろう、
人々の弱音が ついに堰を切って溢れ出し…
広場の結束と士気は、その絶望の声と共に、
大きく崩れだしてきたのだった。
( こいつは…まずいな…
このままでは、
おれ達は本当に総崩れになってしまう。
焦る頭に思案を巡らせ…
一時でも人々を安心させるため、
おれは今一度“防災領域“を展開した。
否。『展開しようとした』のだが…
石畳に光の楯を打ちつけた瞬間、
急に身に異変を感じ…そして気付けばおれは、
目まいと共に、地に突っ伏していた。
石畳にポツポツと、赤い雫が滴り落ちるのが見える。これは…己の鼻血か…
おそらく、度重なる秘奥義の使用に、
心身がついてゆかなかったのだろう。
『 ザラさん!?
『 おいバカ、無茶しすぎだ…!
『 大丈夫…!?
仲間達の声が、やけに遠くから聞こえる気がする。
このまま気を失ってしまえば楽なのかもしれないが…
それでは誰一人、守れやしない。
『 おう悪い、まだいける。
心配するな…!
朦朧とする頭を振って歯を食いしばり
鼻を拭って、ばつの悪い笑顔で
無理矢理立ち上がる。
うむ、なんとかまだ動けそうだ。
だが…
『 旅人さんの切り札も…ついに打ち止めか…
『 オレ達みんな喰われちまうんだぁ…!
防塞領域の展開に失敗したのは大きな痛手だった。
皆を安心させるどころか、
広場の絶望に拍車をかけてしまったようだ。
『 もはや…これまでか…!
誰かがそう、呟いた。
~つづく~