『 もはや…これまでか…!
…ぽつり呟いたのは、
おれやツキモリと共に、集団の主戦力として
矛を振るっていた兵士達の中の一人だった。
彼は、この広場の集団内に居る
他数名の兵士達と目配せして頷き合うと、
連れだって無言で我が背を越えてゆき、
最前列へと躍り出たのだった。
『 ……!?
そして…
何事かと戸惑うおれを振り返り、
彼らは静かに微笑んだ。
『 旅人さん達のここまでの助力に感謝する。
そして…恥を忍んで一つ。
…我らの頼みを聞いて貰えないだろうか。
…おれも騎士の端くれだった者。
彼らの その微笑みの意味するところに、
すぐに察しがついた。
脳裏にチラつくのはー…
いつか見た【 博愛の碑 】と、
金の『モヒカンの毛』だ。
( ふざけるなよ…
『 今から我ら兵士が、
奴らに特攻をかける。
無論、打ち破れはしないだろうが、
少しの間なら、時間を稼げるはずだ。
『 その隙をついて、旅人さん達は、
市民を連れて、少しでも安全なところへー…
『 シャラァァァッップッッ!!!
『『 !!? 』』
兵士達が言い終わるが早いか。
反射的に おれは力の限り叫び、
腕を振りかざしていた。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
かざした腕の先、気合いと共に具現化したのは、
先程失われた黄金の楯。
うむ、根性って素晴らしい。
勢いに任せ、それを大地に叩き付ける。
『 どるァァアッッ!
たちまち守護の円陣が広場を包み込み、
群がろうとする影どもを怯ませた。
凄まじい疲労感と共に、再び鼻血が噴き出すが…
気にしていられるか!
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 簡単に…諦めすぎだ…!!
まだだ…まだまだ…!
まだまだ…まだまだこんなモン!!
ピンチの内に入らねえよッッ!!
真に守りたいモンがあるってんなら!!
『それ』を悲しませるようなマネをして
どうするってんだッ!!
『『『 !! 』』』
…始まりの地で、おれは
このアマラークの歴史を少しだけ聞いていた。
フーラズーラどもに対抗する術が
まだ確立していなかったつい最近まで、
この国では…
有事には兵士達が『自ら進んで喰われる』ことで
奴らを満足させ、市井に被害が出るのを
抑えていたのだ、と。
そしてその自己犠牲の行動と心構えは、
兵士達の最大の名誉とされた。
( 『騎士道』…
そうしなければ…誰かが犠牲とならなければ。
『それ』を綺麗事としなければ。
……きっと国を守る事が出来なかったのだ。
『 200年か300年だか知らねえが…!
この国は守られてきたんだ。
あんた達の…その覚悟と誇りに!!
よそ者のおれが知った顔で
言えた義理じゃ無いかもしれんが…!
実際は苦しかったはずだ…!
辛かったはずだ!!
でも!
それも今日で終わるだろ!
あとちょっと…!
あとちょっとじゃないかッ!!
ここに居る おれ達全員が…!
あんた達のその気概を持てれば、必ずッ!
『全員で』掴めるはずだ!!
あの化け物どもが居ない明日をッ!
誰も犠牲に…ならなくていい未来をッ!!
『『『 !!! 』』』
…我が必死の言葉を受けて、
広場は どよめきはじめる。
『 た、旅人さん…
『 ま、まだ
や、やれるのか、オレ達…?
多少頭が冷えてきて、
所詮は『よそ者の世迷言』と思われたかもしれない
とも感じたが…
だが、目に勇気の炎が灯った人も、
僅かながらだが いたようだ。
ともあれ、こうなってしまえば、
有志だけでも死力を尽くす他はない。
…そう覚悟した時だった。
『 彼の言う通りだ…!
ふいに、広場の西側から、
聞き覚えのある声が響いたと思うと同時に、
広場全域に『癒しの光』が降り注ぐ。
( 世界樹のしずく…?
身体に生命力が戻ってゆくのを感じる。
ついでに鼻血も止まった。
突然の奇跡に再び広場はざわつき…
場の全員が、一斉に声のした方向に注目する。
『 おお…!
『 貴方は!
声の正体に気付いた者たちから、ぽつぽつと
歓声が上がり始めた。
フーラズーラの群れを挟んだ広場の先に揺れるのは、癒しの道具を下げた白馬に跨る人影。
『『『 リズク王!! 』』』
☆ ☆

☆ ☆ ☆
リズク王は馬上で静かに手をかざし…
その手をゆっくりと、己の胸の前に突き出してゆく。
そして目を見開き、高らかに宣った。
『 誇り高きアマラークの民達よ…!
☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 生きよッ!!!
~つづく~