
「…覚悟はできたのか?」
「はい。お兄ちゃん」
「本当にか?」
「ええ。もうなにも思い残すこともないわ」
「だったらなぜ、こんな写真を撮るんだ? おまえがこの世界から消えれば、その写真だって消えてなくなってしまうのに」
「それは…」
「勝手なものだな。自分勝手に俺を作っておいて、嫌になったら、またこうして消せばいいのだからな。一度でいいから、俺もおまえのように人間になってみたかった。そして、もう少し生きたかったな。…なあ? エリザベスよ」
「おまえは何人目だ? ウィルカ」
「三人目よ。チャスカお兄ちゃん」
「朝、東の空に昇った金星は、明けの明星『チャスカ(Chaska)』としてこの世界に生まれ、夕方、西の空に降りた金星は、宵の明星『ウィルカ(Wilca)』として、この世界から消える。そうしてまた、つぎの日の朝に同じ空に昇る。チャスカとウィルカ。それは、けっして断ち切ることのできない輪廻の鎖だ。俺とおまえのようにな」
「どうか、もう少しだけ私に時間を下さい。本当に覚悟ができるそのときまで」
「いいだろう。それがおまえに与えられた名前なのだからな。その分、おまえの夜をいただくまでだ」
こうして、眠れない夜が続く…。