なき人に
御魂寄り添い冴ゆる月
ウィルカ
みなさま、こんにちは。
ウィルカです。
私が日誌を書くのは、実に2年ぶりです。
そしてまた、ドラゴンクエストⅩとは何の関連性もない、まったく個人的な日誌です。
私的かつ自分勝手な内容の拙文を、このような公の場に一方的に記すことを、どうかお赦しください。
…「ショコラ」と出会ったのは、クリスマスもほど近い、冬の日のことでした。
その夜、仕事を終えて自宅に帰ってきた私は、自室のベッドで子狐のように身体を丸めて眠っている、一匹のかわいらしい茶色い仔犬を見つけました。
その仔犬は、当時、私の実家で同居していた幼稚園児の姪が、父親である私の弟にねだって買ってもらった「ミニチュアダックスフンド」の男の子でした。
それから3年後の冬の夜。
母が亡くなり、父の死に目にも会えず、「馬乗り」になるという夢を諦め、挫折し、北海道の競走馬育成牧場から兵庫の実家に、ひとり、戻ってきた私。
名付け親の女の子は、母親に連れられて父親のもとから去ってゆき、住む人間が誰もいなくなってしまった冷たい家で、最初に見たあの日と同じように、ひとり、ベッドの上で眠っていたショコラ。
その夜から、私とショコラは、二人きりの家族として、いっしょに暮らすことになりました。
…最初に会ったあの日から、17年。
ショコラとの幸せなときは過ぎました。
クリスマスを一週間後に控えた昨年の12月。
いつものように晩ごはんを食べたあと、突然、ショコラは自力で立ち上がれなくなり、自分で歩くこともできなくなりました。
ショコラの身体を「がん」が蝕んでいたことに、私は気がつかなかったのです。
日に日に痩せ細ってゆく、ショコラの小さな身体。
もはやショコラは、ごはんを食べることもできないほどに衰弱し、吐くことと排泄をすることしかできない身体になっていました。
17歳という高齢だったせいもあり、手術しても回復は見込めず、あと数日の命だと宣告されました。
私は、ショコラとの残されたわずかな時間を、最期までいっしょに生きることに決めました。
…「お母さん!」
年末の繁忙期で仕事も休めず、夜遅くに帰宅してドアを開けるのももどかしく、我が子の寝ている部屋に転がり込んだ私は、たしかにショコラがそう呼んだように聴こえました。
人間が大好きで、誰からも愛されて、注射を打たれてもまったく吠えることもなかった強いショコラが、苦しげに声をあげて、ひとり泣いていました。
真夜中。
苦痛に泣き続けているショコラのすぐそばで添い寝をして、なんとか痛みを和らげようと、私はずっとショコラの身体を撫でていました。
しかし、いつしか強烈な睡魔に襲われて、ついうっかりと眠ってしまっていました。
朝。
はっとして目を覚ましたときには、ショコラの両目は生気を失って白く濁り、半開きになった口からは、微かな吐息といっしょに舌が力なく垂れていました。
そうしてそのまま、私の腕の中で、ショコラは息をしなくなりました。
2023年12月24日 午前7時
「よくがんばったね」
私は、まだ温かいショコラの身体に、キスをしました。
夜。
ペット霊園で火葬を済ませて、骨になったショコラと自宅に戻ってくると、「主はきませり」というクリスマスイブを祝う讃美歌の合唱が、すぐ近くにあるカトリック教会から聴こえてきました。
冴ゆる夜空に、月に寄り添うように冬の星が瞬いていました。
私はショコラの遺骨の入っている骨壷を胸に抱いたまま、讃美歌のする方角に向かって祈りました。
ショコラは、背中に小さなかわいい羽を生やして、短い足で宙を漕ぎながら、あの青い空の中に、天使になって昇って逝ったのだと。
そのときになってはじめて、私は、ショコラのために涙を流すことができました。
…天国の手前に、「虹の橋」という場所があるという。
天国へと続いている虹のたもとで、先に死んだ動物たちが主人を待っているという空想の物語。
だけどお前は、そんなところで私のことを待たなくていいからね。
また別の新しい命に生まれ変わって、大切な人といっしょに幸せに暮らしてね。
そして、叶うなら。
また、私に会いに来てほしい。
たくさんの幸せなときをくれて、ありがとう。
ショコラ。
ウィルカ