
陰と陽
「あら? にとりあなた。この間会ったときよりもちょっと太ったんじゃないです? それになんだか肌の色も緑っぽくなってるというか…」
「ああ…うん。こないだ、掘削機のパーツに必要な素材を調達するために、久しぶりに人里まで降りて行ったんだ。そしたら、今時まだ『鍬(くわ)』を使って畑を耕してるのを見てね。ついでだから、にとり特製『超電磁コンバインkappa-MK2』を作ってあげたら、里の人間に喜ばれちゃって。そのお礼にもらったキュウリ500本をいっきに食べたら、こうなっちゃったんだよ」
「ほほぉーぅ、キュウリをねぇ。…それにしても河童って、どうしてそんなにキュウリが好きなのでしょうね?」
「それは、『人間の味』がするからだよ」
「かわいい顔して、しれっと怖いこと言いますねえ、にとり。今の言葉、博麗の巫女に聞かれたら『退治』されてしまいますよ?」
「大丈夫。今は、人間は河童の『盟友』だから。尻子玉なんて抜かないし。昔の味を懐かしんでキュウリを食べてるだけだよ。…それよりこれ。依頼された『陰陽玉』が完成したから持ってきたよー」

「おお、きっちり半月で仕上げてきたじゃないですか。さすがは、にとりです。それでは私のほうからも、いつもの口座に河童巻き八百貫を振り込んでおきますね」
「わーい、ありがとう! 文(あや)さんにもらった札束を博麗神社の賽銭箱に放り込んだら、あの巫女、涙を流して陰陽玉を貸してくれたよ。神社の一番大切な御神体なのにね」
「さっそくお山に持ち帰って分析器で成分を解析したら、陰陽玉の素材は、二酸化ケイ素で組成された酸化鉱物の石英種。…つまり、『瑪瑙(めのう)』であることがわかったんだ。で、ちょうどお山に瑪瑙の鉱脈があったからこっそり掘削機で掘り出して、オリジナルからトレースしたデータを3Dプリンタで本物そっくりに作ったってわけさ」
「あの虹龍洞から龍珠を掘り出したのですか。どうりで霊力を感じるわけです。それにしてもよくもまあ無事で。しかし見事な出来栄えです。ちゃんと『陰』と『陽』の二つの勾玉を結合させて陰陽玉にしてるじゃありませんか。オリジナルにあった通信機能も付与されていますし。これならうまく行きそうです。それでは、こちらの赤い『陰』の勾玉のほうを明日、手筈通りに椛(もみじ)に渡して下さい」

「あれ? 半分だけを椛に渡すのかい?」
「ええ、そうです。陰と陽。闇と光。相反する二つの物が作用して、この世界のすべての事象を生み出しています。その陰陽玉は、男女の体がひとつに結合した姿を具象化したものなのです。それを二つの勾玉に分割すれば、どんなに離れていても、互いを求めて元の陰陽玉に戻ろうと引き合うはず。女と男が惹かれ合うように」
「なるほどね。そういえば、陰陽玉は椛の分と文さんの分を二個作ってって言われたけど、残りのひとつの陰陽玉は何に使うんだい?」
「ああこれはですねー。個人的に欲しかっただけなのです。なんでも陰陽玉には、『甘い物を食べても太らない』、『いろいろな香りを出せる』っていう効能もあるみたいでしてねえ。美容と健康のためにもどうしても手に入れたかったのですよ。『若さ』と『美貌』を長年維持するのは大変なことですからね」
「ふーん。そうやって新聞を勧誘してるのか」
「失礼なことを言わないで下さい! ネタと読者は自分の脚で見つけるものです。…それでは、にとり。椛のこと、頼みましたよ」
天狗は、河童から受け取った紅白の瑪瑙の玉を胸にしまうと、つむじ風となって山の遠くに飛んでゆきました。