名前。
それは、生まれたときに、すべてのものに付けられる「命の名前」。
私は昔から、自分の分身となるRPGの主人公に名前を付けることができる場合には、そのキャラクターが男性なら「チャスカ」、女性なら「ウィルカ」と名づけています。
「チャスカ(Chaska)」は、南米の国ペルーで、スペイン語とともに現在も公用語として使われているインカの言葉ケチュア語で「星」、明けの明星である「金星」を意味する名前です。
そして「ウィルカ(Willka)」は、同じくケチュア語で「聖なるもの」という意味を持つ言葉で、インカ神話の主神で太陽神「インティ(Inti)」と同じ「太陽」を表す名前です。

さて。
インカ神話のほかにも太陽神を主神とするのは、エジプト神話の「ラー(Ra)」や、日本神話の「天照大御神(アマテラスオオミカミ)」などがあります。
世界各地に伝わる神話では、太陽神は「男神」で、月が「女神」であることがほとんどです。
しかし、私たちの国「日本」は珍しく、太陽神が先述の天照大御神=女神であり、月は男神の「月読命(ツクヨミ)」となっています。
邪馬台国の「卑弥呼」もまた、女性でした。
一説では、卑弥呼は「太陽に仕える巫女」という意味の「日巫女(ひみこ)」ともされています。
太陽神から神託を受けていた太陽の巫女の卑弥呼は、絶大な力とカリスマ性を持ち、倭の国の女王として、人々に畏れ敬われていました。
そうして時が進み、日いづる国日本の主神、天照大御神が、倭の国の女王卑弥呼に代わって「太陽神」となったのでしょう。

閑話休題。
私は以前、ある雑誌に掲載されていた写真を見たその日の夜、「夢」を見ました。
朝、目覚めると、その夢は「ひとつの物語」として、私の頭の中にすべて出来上がっていました。
その日の朝から私は、夢の中で見た「彼女の物語」を書きはじめました。
いや正確には、「夢」として「彼女」から告げられた言葉を、受け取った私が紙に記すという作業でした。
それが、太陽の巫女として太陽神インティに捧げられたインカ帝国の少女、「ウィルカ」でした。
ケチュア語では、太陽のウィルカは男性、金星のチャスカは女性に名付けられます。
でも夢の中では、彼女の幼少期は「チャスカ」、成長してからは「ウィルカ」という名前であることを、今の世界に生きる私に告げていました。

インカ帝国には「文字」がありませんでした。
文字の代わりに「キープ」と呼ばれる紐を使って表していたのですが、私はキープの代わりに、彼女から受け取った言葉を「日本語」で書き記しました。
日本語は、非常に多彩で奥深い表現を行うことのできる美しい言語です。
文字を持たないインカ人のウィルカは、自らの生きた証を書き記してほしいと、文字を持つ日本人である私に託したのかもしれません。
それから3年の時を費やして、ついに私は、「ウィルカの物語」をすべて書き終えました。
それは、400字詰めの原稿用紙に換算して約1200枚、文庫本では670ページほどにもなる長編でした。
でも、ある知人女性の死をきっかけに、私は最終章だけを未完のまま残して、その物語を終わりにしました。
もう二度と、完結することはないでしょう。
でも、それでいいのだと思います。
「ウィルカ」は確かに、生きていたのだから。

私にとって、「ウィルカ」は大切な名前です。
「チャスカ」もまた。
もうひとりの私の分身である、プクリポの兄「チャスカ」のほうは、今もずっと眠ったままになっていますが、またいつか、このアストルティアの世界に生かせてあげられたらいいなと思います。
もう少し待っててね。お兄ちゃん。
ウィルカ